▼ 06
「紗也っ!!!」
簡単に追い付いて捕まえた手は握り潰しちまいそうな程に細くて、初めて触れたそれにドキンと心臓が跳ねていた。
思わず入った力に紗也が表情を歪ませるのが解っても離せねぇままだ。
「あの、離して下さ……」
「嫌だ」
もう、この手を離す気なんてない。
両手で掴んで確りと握り直すと、その場にしゃがんで目を合わせる。
もう、恥ずかしいだの何だのと言ってられる場合じゃなかった。
「嘘じゃねぇ。入学した時から好きだったんだ」
「それはもういいですから」
「良くねぇよっ」
紗也が見たのはルキアっつー暴力種で、所謂幼馴染みってヤツで。俺の彼女だなんてとんでもねぇ。俺も大概迷惑甚だしいが、本人が知ったら逆ギレして間違いなくシスコン兄貴と揃って俺が被害を被るのが目に浮かぶくれぇで……。
「俺が好きなのは紗也だけで、入学式の日に一目惚れして……」
「だから恋次先輩っ それはもう……」
「良くねぇっつってんだろうがっ」
これだけは絶対ぇに譲れねぇ。嘘だと思われたままじゃ居られねぇんだ。
「一目惚れしたんだよ。入学式ん時から、紗也しか見てねぇっ……って、紗也?」
何か、様子が……
「そ、れはもう、解りました、から。その……、さっき檜佐木先輩が……」
「修兵???」
って、アイツ何か渡してやがったよな。
「さっき何、を……っっ」
あの野郎……。
真っ赤になった紗也が申し訳無さそうに差し出して来た物。
それは……
やられた。
ガク――ッと項垂れて声も出ねぇ。マジ有り得ねぇ……。
修兵の野郎、一体いつの間に持ち出しやがったと思っても、もう遅ぇ……。
「さっき見てた、よな……」
「……すみません」
ヤバい。
見た途端に走り出したって事は、変態かと思われんじゃねぇだろうか……。
「紗也……、その」
俺はもう、紗也の顔すらまともに見れねぇで居る。
それは、新聞部なんて、らしくねぇ部活を兼任してた修兵に頼み込んで、入学式ん時に見た紗也を盗み撮りして貰った写真で……。
ずっと、生徒手帳に忍ばせてたもんだ。
ダラダラと背を伝うのは、冷や汗なのか羞恥から来るもんなのかさえ判らねぇ。
けど……
「紗也が、好きなんだ……」
其れだけは、嘘じゃねぇから……
「好きです」
「…………紗也?」
「私も、恋次先輩が好きなんです。ずっと……」
さっきは酷い事を言って、ごめんなさい……
「…………っ」
聴こえた声に、見上げるようにして目を向ければ、紗也が、涙を浮かべたまま恥ずかしそうに微笑んだ。
修兵は後で絶対にシバく。
けれど、ちょっとくれぇなら感謝してやると、離せないままだった手を引いて腕に収めた。
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