▼ 04
「四宮見なかったか?」
終業時間を狙って懐かしくもない学校に駆け込んで、急いで向かった紗也の教室には切望した姿は見えなかった。
その辺の野郎を捕まえて訊いても、俺の勢いにビビるだけで欲しい答えは返って来ない。
今日を逃したら、もう会えねぇんじゃねぇのか?
そんな厭な思考ばかりが浮かんでは消える。
まだSHRが終わったギリで、居ねぇはずがねぇ、のに……
「雛城っ!」
目の端に、紗也といつも一緒に居たはずの後輩を捉えて叫んでいた。
走り寄れば、真っ直ぐに怒りに満ちた視線に射抜かれてたじろいだ。
やっぱり何か遇ったのかと思うのに、その理由が解らねぇ。
「紗也、知らねぇか」
「知ってます」
「何処に居……」
「恋次先輩は、何しに来たんですか?」
何しに……って
「会いに来ちゃ悪ぃのかよ」
その、一々突っ掛かるような物言いに苛々が増して行く、のに
「紗也はもう、会いたくないと思います」
「…………は?」
一刀両断するかのような言葉を放つと、上手く反応出来ねぇ俺を一瞥しただけで踵を返した。
「ちょっ……、待っ 何でっ」
「私、見ました」
だからっ
「………何、を…」
「恋次先輩が、彼女と居るのを」
彼女…?って、紗也だよな。
「そりゃ、居るだろ」
「最低ですよね」
「はぁ!?だからっ紗也の……」
「紗也も!」
何、だよ……。
訳解んねぇぞと募る苛立ちはマックスを振り切るのに、そんな俺の視線にも雛城も一歩も退くつもりは無ぇとばかりに口を開く。
「……紗也も、見たって言ってました。手を繋いで、恋次先輩が彼女を送って行ったよって……」
「そ、れって……」
「心当たり有りますよね。だからもう、紗也に二度と関わらないで下さい。紗也も……」
そう思ってます。
「…………」
解ったなら二度と来るなと云わんばかりの態度で……
つーか。
見た……って、何をだよ。
紗也と連絡が取れなくなった日って言やぁ……
『彼女、送ってやれよ』
『言われなくても同じ方向だっつの!』
『ヤベぇっ 電車に遅れる!走るぞっ!』
ルキア――…
あれは――…
「違ぇっ!」
ちょっと待て。ルキアは彼女でも何でも無ぇってか、論外だろ。
何で俺があんな口の悪いガサツな女……っ
……けど。
俺が否定しねぇ以上、手を引っ張って歩くのを見れば、それは、そう言う事で……
紗也が、見てたのか……?
「悪い……」
「私に謝られても困ります」
「じゃなくてっ!……って、そうだよな……」
此処で言い訳する事に意味は無ぇ、のは解っちゃいるが、心臓がけたたましく鳴りやがる。
このままじゃ……
「けど悪ぃ。紗也に会って、ちゃんと誤解を解きてぇんだ……」
付き合ってんのは紗也だけだ。俺が好きなのは、ずっと……
「紗也が、好きなんだ……」
紗也がもう、俺の顔なんて見たく無くても……
「……部室です」
「………っ 本っ当に、悪いっ!!!」
余程、酷ぇ顔でもしてたんだろうが、紗也の居場所を呆れたように教えてくれた雛城に、礼もそこそこに駆け出した。
例え振られちまっても………っ
ヤベぇ……
想像だけで寿命が縮む……
それでも何より、今泣いてる紗也に、
違うんだと伝えたかった……違ぇっ
やっぱり俺は、紗也の顔が見てぇ。
紗也に、会いたいんだ――…
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