▼ 03
「くそっ」
チッと舌打ちして、放り投げそうになった携帯を睨み付ける。
ギリ と握り締めれば、軋む金属音が耳に障った。
「何、振られた?」
「何でそうなるっ」
ベッドに寝そべって雑誌に目を落としたまま、愉しそうに云う修兵を殴り付けてやる。
振られるような事をした憶えはねぇ。
けれど、数日前から通じなくなった携帯に不安ばかりが渦巻いていた。
「つったってよ、それって着拒だろ。メールまで返って来んだから決まりじゃねぇの?」
お前何したよって言われても、身に覚えが無ぇんだから対処のしようもねぇ。
他に手は無ぇと校門で待ってみても、紗也の姿は見えなかった。
仲の好い奴等に訊いても知らねぇっつーし……
「訳解んねぇ……」
「避けられてんじゃね?」
「の、理由だっつの!」
避けられてるだけなら…、善くはねぇが、まだ良い。着拒までされちゃあ、他に連絡を取る手段なんか残っちゃいねぇ訳で……
「顔が見てぇ……」
「其処か!」
卒業してから、毎日少しでも顔が見れていた、当たり前に在った毎日が無くなって胸に穴が開いたような気がした。
本当に、おかしくなりそうなくれぇ……。
学校って凄ぇって、あんなに思った事は無い。
会いたくて、話したくて、このままにしたくなくて。ヘタレ返上で紗也を彼処で待っていた……
「偶然に賭けてる時点でヘタレ返上されてねぇだろ」
「お前ぇは一々、るっせぇんだよっ」
せせら笑う修兵をもう一度殴り付けて歯噛みした。
思いがけず両想いになれて、そうしたらもう、ほんの少しでも一緒に居たくて。
遠慮する紗也を押し切って、毎日のように迎えに行っ、て……
「其れかっ!?」
「違うに決まってんだろ、莫迦犬っ」
……そうじゃねぇなら、益々訳が解んねぇし。
一緒に何処かに行くかって約束した春休みも目前で。本当に、このまま春休みになんかなっちまったら、春休みが終わっちまったら、
「二度と会えねぇんじゃ……」
「かもな」
「………っ」
「まんまヘタレじゃねぇかよ……」
とにかく、このままじゃ失くしちまうんじゃねぇかと焦燥ばかりが募って行くが、会えねぇままじゃ何も変わらない。
紗也が何を思ってんのかが分からないまま……
「諦めんの?」
「んな訳、無ぇだろっ」
もうこれしか無ぇと立ち上がる。
やっと手に入れた。
紗也を彼女だって、言える立場になれたんだ。
諦められるなら、疾っくに諦めてるんだっつのっ。
「絶対ぇ、逃がさねぇ」
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