▼ 01
「お疲れっ」
「ちょっ、紗也っ」
先に帰るねと告げて、バタバタと部室を飛び出した。
私を呼び止める声には、ごめん、明日にしてと振り返り様に叫んで、私は校門へと只管走る。
そんな事に構っている時間は無い。
あの日から部活の終わる時間に合わせて、恋次先輩が迎えに来てくれていた。
悪いですと、とにかく恐縮して言う私に、俺が会いたいから良んだよって……
ギャ―――ッ
ヤバいヤバいヤバいっ
瞬時に真っ赤になっただろう頬を押さえて足を止める。
思い出してニヤけるとかもう、恥ずかし過ぎる……けど
『春休みでする事もそんな無ぇし、時間の有る内に出来るだけ会いてぇし』
そう言って、明後日を向いた恋次先輩が照れ臭そうに頬を掻いた。
会えるなら、私だって会いたい。出来るだけ一緒に居たいと思う。
だから、甘えてもいいのかなって思って頷いていた。
「恋次先輩っ」
お待たせしましたって声を掛ければ、そんな走って来なくていいぞって笑ってくれた。
「部活で疲れてんだろうが」
「……大丈夫です」
だって、先輩に早く会いたいから……
そう言えれば良いのに、私はまだ上手く接する事も出来なくて、紅く染まっているだろう頬を隠すように俯いた。
「じゃあ、帰るか」
「先、輩っ」
私の荷物を取って歩き出す先輩の隣に慌てて並んで、自分で持ちますと声を掛ければ、無言で見詰められて言葉に詰まった。
今の、可愛く、なかったかな……
何か、もっと上手く言えれば良いのにと自己嫌悪に陥りそうになる。
そんな私に気付いた恋次先輩が、俺が手ぶらで歩きたくねぇだけだからと、またグシャグシャと撫でてくれるのにほっとした。
「ありがとう、ございます……」
「おう」
先輩の隣が擽ったいくらいくらいに幸せで、それと同じだけ、本当に私で良いのかなってまだ思う。
色々な事が全然慣れなくて、戸惑って、失敗してばかりで……。
でも……
「どうした?」
黙り込む私に気付いて笑顔を向けてくれる、恋次先輩に向かって駆けて行く私を見るその瞳が、泣きたくなるくらいに優しいから……
「何でも、ないです」
これからゆっくり、距離を縮めて行ければ良いと思った。
「春休みになったらよ、今より長く一緒に居られるな」
だからどっか遊びに行こうぜって、此れからの約束をしてくれる。
私は、近付けていると思っていたんだ……。
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