壱驚かせようと向かったいつもの場所には、目当ての人物の姿は無かった。 気配は残っているのに何処へ……と、俺は閉じていた霊圧を上げて、紗也の霊圧を必死になって手繰り寄せる。 今までこんな事は一度も無かった。 何と言ってでも説き伏せて、一人で居させるんじゃなかったと、気ばかり焦って集中しきれない自分に舌打った。 ―――… 居、た―――… 此処からそう離れて居ない場所から、突如として上がった霊圧は間違い無く紗也のモノで……。 俺はその場所に向かって瞬時に駆け出していた。 「この……っ 莫迦っ!!!」 ビリビリと空気までを震わす俺の怒りに、もう涙目になって此方を窺っているのは紗也だ。 可愛い…… って惚けは一先ず置いとくとしてだ。 もう二度としないようにと約束させねぇと、俺の気が休まる事は永久に無ぇ。 「ダメ……ですか?」 「ダメだな」 まだ言うか! 只でさえ、こんな所に一人で居させたく無ぇと思ってるっつーのに、紗也は珍しく不満顔だ。 『何で!そんな格好で泉で泳いでんだよっ!!!』 『暑かったので……』 駆け付けた俺の前には、泉の中に佇む紗也が居た。 こんな所にこんな場所が在ったのかよ……って、今は其処は問題じゃねぇ。 暑かったからと、少し前に見付けた此処で泳いでいた処に、俺の霊圧が上がって驚いたらしい。 『こんな早い時間にどうされたんですか!?』 『紗也……』 俺の心配を通り越した怒りに反して不思議そうに問い掛ける。そんな事の重大さをさっぱり解って無ぇ紗也に、つい怒鳴っちまったのが先の台詞だ……。 ふ―――…っと息を吐いて気を鎮める。 小さく聴こえた嚔に舌打ちも洩れる。 「とにかく…、上がって来い」 暑いったってもう秋で、水温だって夏とは違うだろう。 話はそれからだと、百八十度、紗也から意識をも逸らすように背を向けた。 月明かりの下。 紗也の躰を伝う滴が、やけに艶めかしく映った……。 |