弐閑な空間に、紗也の気配だけが揺らめくようだった。 もっと距離を取れば良かったと握った拳に力が入って。 それじゃあ心配で落ち着かないと思う自分に内心で溜め息を吐いた。 水音が耳に響く。 近付く紗也の気配が、その熱まで伝えて来るようで。 急激に現状を意識してしまった俺は、身体が燃えるような熱を持って行くのを覚った。 心臓が、煩ぇ…… 鼓膜に直接打ち付けるようにデカい音を響かせる。 さっき迄は頭に血が上っていたお陰で、まるで状況が見えて無かった事にも呆れてしまう。 何か、話さねぇと…… とにかく、何か気を逸らしてねぇと持たねぇ。 気を紛らわせでもしねぇと意識が持って行かれそうになるを止められない。 何でもいいから早くと、そう解って居ても渇きを訴える喉は、俺の意思を反映する気は無ぇようだった。 背中合わせの、熱も、その肌の柔らかさまで感じ取れそうな場所で、昂る神経を抑える術を持たないまま…… ―――…っ 衣擦れの音に目を逸らした俺は、失敗を悟った。 「紗也、悪い……」 「修、兵………」 まだ襦袢を羽織っただけの紗也が息を呑んでいた。 これ以上は何もしねぇからとの想いを籠めて、抱く腕に力を込める。 それは間違い無く自分の為で、戒めでしか無いとしても……。 衣擦れの音に目を逸らして、瞳に映った其れに喉が音を立てた。 水面に揺らめく紗也から目を逸らせないまま、抑圧された理性が霧散するのを感じた。 『修兵……?』 紗也の震える声音に我に返っても、拘束する腕を弛めてもやれない程に……。 「好きだ」 今、云うのは汚ぇよなと思っても、もう其れを抑留するモノは残っていない。 「ずっと、初めから。紗也が好きだった」 一目惚れなんて在るんだと笑えたくれぇ…… 「もう……、足りねぇんだ」 「修兵……」 頼むから…… 「俺を好きだって、言って」 情けねぇとは思っても、間違い無く此れが俺の偽りの無ぇ気持ちだ。 紗也しか欲しくない。 もっとカッコ好く、もっとちゃんと伝えるつもりだったのにと苦笑するのに、紗也に逢ってからの俺には、此れが精一杯かも知れねぇと思えた。 これ以上も以下も無い。 「好きだ……」 |