真昼の月 | ナノ









「……凄ぇな」



思わず感嘆の息を洩らしたのは、俺が風死をソイツ目掛けて擦れ擦れに放ったからだ。


避けなかったのか、動けなかったのか


恐らく前者だろうことは容易に知れた。
微動だにしなかったソイツは、息を呑むこともせずに無を貫いていた。


例え、直撃したとしても避ける気は無ぇってことか……


一体どんな強者だよと、俄然興味が湧いた俺は、戻した風死を解いて降り立つと、一歩、また一歩とソイツに近付いて行った。



互いの息遣いまで聴こえそうな静寂の中、草を踏む音も敢えて消さずに進んでやれば、ソイツは観念したかのようにその霊圧を現した。



―――――…



その、憶えの有る霊圧に息を呑む。



間違いない。

この霊圧は、あの時の――…



心が沸き立つように震えが走る。


逃がさねぇ


頼むから逃げてくれるなと祈るように瞬歩で寄って、闇から引き摺り出すようにして捕まえる。


「お前、あの時の六回生、だよな」

「…………」


間違いない。
俺がこの霊圧を間違えるはずがねぇ。



「檜佐木、副隊…長……」



見付けた――…

この声だ。
間違い無い。

彼女、だ――…



名前を呼ばれた瞬間、痺れるように躯が震えた。


何、だよ……。


俺は自分でも知らねぇ内に、こんなにもこいつに嵌まっていたのかと自嘲が洩れた。




たった一度、夕闇の中で会った彼女に――…







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