弐「……凄ぇな」 思わず感嘆の息を洩らしたのは、俺が風死をソイツ目掛けて擦れ擦れに放ったからだ。 避けなかったのか、動けなかったのか 恐らく前者だろうことは容易に知れた。 微動だにしなかったソイツは、息を呑むこともせずに無を貫いていた。 例え、直撃したとしても避ける気は無ぇってことか…… 一体どんな強者だよと、俄然興味が湧いた俺は、戻した風死を解いて降り立つと、一歩、また一歩とソイツに近付いて行った。 互いの息遣いまで聴こえそうな静寂の中、草を踏む音も敢えて消さずに進んでやれば、ソイツは観念したかのようにその霊圧を現した。 ―――――… その、憶えの有る霊圧に息を呑む。 間違いない。 この霊圧は、あの時の――… 心が沸き立つように震えが走る。 逃がさねぇ 頼むから逃げてくれるなと祈るように瞬歩で寄って、闇から引き摺り出すようにして捕まえる。 「お前、あの時の六回生、だよな」 「…………」 間違いない。 俺がこの霊圧を間違えるはずがねぇ。 「檜佐木、副隊…長……」 見付けた――… この声だ。 間違い無い。 彼女、だ――… 名前を呼ばれた瞬間、痺れるように躯が震えた。 何、だよ……。 俺は自分でも知らねぇ内に、こんなにもこいつに嵌まっていたのかと自嘲が洩れた。 たった一度、夕闇の中で会った彼女に――… |