壱雲一つない夜空はどこまでも高く澄みきっていた。 白い月が揺らめく中、風死を操り宙を蹴る。 いつものように空を駆りながら、俺は、この何ヶ月かの違和感を思っていた。 この流魂街の外れに在る山中は、以前から風死の修練に使っている場所で、滅多なことでは死神でさえも足を踏み入れる事はない。 そんな場所に誰かの存在を感じたのが、三ヶ月程前の事になる。 違和感と言うのはおかしいかも知れない。 俺が此処に来た時に誰が居るわけでもねぇ。 痕跡も気配も、霊圧の名残すらねぇ。 けれど、その事が反って俺に違和感を感じさせていた。 強いて言うなら、空気……か。 この空間に漂う空気、それが誰かの存在を如実に伝えていた。 今日は仕事が上手く片付いて、いつもより大分早い時間に此処へ来た。 そうして始解して、いつものように風死を手にした瞬間。 在る―――… 霊圧を圧し殺した、その不自然過ぎる程に何も感じない一点。 虚、ではないだろうが、あくまでもその存在を消そうとするソイツが気になった。 今日こそは、捕まえる。 俺は風死を引き寄せると、その無の空間に向かって一気に振り下ろした。 |