伍「じゃあ、またな」 「お休みなさい、修兵」 「………………」 「……あの、何か有りましたか?」 「…………いや。何でもねぇ」 ゆっくり休めよと、なるべく普段通りにと意識して声を掛ける。 頷く紗也に微笑って、踵を返した。 結局、今夜は最後まで、紗也の様子はおかしいままだった。 今にも泣き出してしまいそうな笑顔に、何度も手を伸ばし掛けては止めた。 理由を訊いて、そうして問い質してしまいたいと心は焦れるのに、触れれば紗也が、壊れてしまう気がした。 明日また会って、それでも気になるなら訊けばいい。 今度は紗也を抱き締めて、その哀しい笑顔の理由を話すまで甘やかす。 紗也は、大丈夫だ。 そう自分に言い聞かせた。 通りの曲がり角まで歩き着いて、背後に感じていた愛しい霊圧に笑みが湧く。 どんなに言っても姿が見えなくなるまで見送る紗也に折れたのは俺で、こうしてむず痒い想いをしてるのも俺だ。 早く隊舎に戻したいと思うのに、さっさと瞬歩で去るのは惜しいとゆっくり歩いてしまうのは、この時間が愛しいから。 振り向いた時に、嬉しそうに手を振る紗也が見てぇから……。 今夜もニヤけそうになる顔を引き締めて、振り返ろうとしたその刹那…… 背中に感じたのは、紗也の温もりだった。 「こっちを向かないで!」 やっぱり何か有ったんじゃねぇかと、慌てて振り返ろうとする俺を制したのは紗也の声だった。 「紗也……?」 「このまま。少しでいいから、話を聞いて……」 回された腕に手を添えて優しく握り締めれば、その手が俺の死覇装をギュッと掴んだ。 まるで縋るようなそれに不安ばかりが増して行く。 早く……。早く、言え。 そうしたら、抱き締めて放さねぇ。 「…………き、です」 「紗也?」 聴こえねぇ。紗也…… 「……修兵が好き」 ごめんなさい。 困らせるつもりはないんです。 どうしても、今日言わないと…… 今日言わないと、何だよ 「紗也……」 其だけじゃ解らねぇと焦れるのに、熱がゆっくりと離れて行く。 「すみません……でした。聞いて戴いて、ありがとうございます」 「…………ざけんな」 何を一人で完結しようとしてやがる! するりと抜こうとした腕を捕らえて反転させて抱き締めた。 ふざけんな 「俺の、気持ちは無視かよっ」 「…………」 本っ気でふざけんな。 「何で!泣いてんだよ!」 俺は、お前が好きだって告ったよな。 ずっと、待つって言ったよな! なのに何で――… 「紗也が好きだっつってんだろっ」 「私も!……私はっ もっと傍に……居たかったんです」 貴方の傍に、居たい――… 「だから……っ」 其れを望んでんのは、俺だ。 |