肆どうせ会えないならと腹をくくった俺は、一週間は掛かる仕事を四日で終わらせると、矢のように執務室を飛び出した。 「そのやる気を普段から見せて下さい――っ!」 と言う、四席の苦言は背中で聴いた。 とにかく、一刻も早く、紗也に会いに行きたかった。 「紗也……?」 私情だろと云われようが構わねぇと瞬歩まで遣って来た其所には、月明かりを浴びて佇む紗也の姿が在った。 普段なら鍛錬をしている時間のはず。 けれど今夜の紗也は、地に突き刺さる斬魄刀をそのままに、ただ身動ぎもせずに見詰めるだけ。 いつもなら、直ぐに俺の存在に気付いて微笑ってくれるのに、思い詰めたようなその表情で何を想うのか。 始解した紗也の刀身は月光に煌めいて、畏怖を覚える程に綺麗だった……。 紗也が、消える…… 全身を震わせる程の焦燥感が襲い掛かる。 紗也が光の中に透けて消えてしまいそうな程に儚く見えて、俺は其所から引き戻すように腕に収めると、その細い躯を掻き抱いた。 「……紗也っ!」 「修兵……っ?」 突然の事に紗也が驚いているのが解っても、抱く腕を弛める事が出来ない。 多分、今俺は顔色を失くしている。 震える腕を、止める術を持たない……。 「どう、したの……?」 紗也の問いに応える事も出来ずに、言い知れぬ何かに耐えるように抱き締め続けた。 「大丈夫です」 数日来られなかった俺の詫びに、先月もそうだったからと紗也が微笑った。 紗也の方がよく分かってるって事かと、この数日の焦れた想いが気恥ずかしくなって、同時に擽ったい想いになる。 「会いたかったんだよ」 悪ぃかよとばかりに言い放てば、紗也の笑顔が翳った……。 また、か……。 今夜は紗也の様子がおかしい。 何が、とは上手く言えねぇ。 確証もない。 ただの漠然とした不安…… 先までも。 抱き締める腕の震えに気付いてか、紗也は俺の気の済むまで腕の中に居てくれた。 『久しぶりに会ったから』 と言う俺の苦しい言い訳にも、気付かない振りで笑ってくれた。 そうして…… 『私も今日、どうしても会いたかったんです』 どうしても……? 『紗也……?』 問えば、何かを諦めたように微笑みを象る。 いつもより近い距離で紗也を感じた。 そして今までで一番、紗也が遠い……。 境界線の上を揺らめく紗也は、迷うように、何かに耐えるように、その表情を切なく歪めた。 |