参『ごめんなさい……』 告げる、と言うより、溢れ出てしまったような告白に、返されたのは望んだ応えではなかった。 まだ、早かったか…… 震える声で呟く紗也が、抱く俺の腕を握り締めるその強さに 俺が副隊長だからとか、 俺が嫌だとか もう、そんな理由じゃない事だけは理解が出来た。 『待つから……』 俺にはもう、それ以外の選択肢なんて無ぇんだ。 ゆっくりと振り向かせた紗也は、触れたらまた消えてしまうんじゃねぇかと思う程にボロボロに涙を溢していて…… こうして一人で抱えて泣かせている事が耐えられねぇと思う。 その流れ落ちる涙も、その存在の全てが愛しいと疼く。 『俺は、お前しか欲しくねぇみたいだ』 いつか、その涙の理由に俺が触れる。 それを他の誰にも譲る気はねぇとの想いを込めて、もう一度紗也を引き寄せた。 『紗也……』 何かを伝えようと震える口唇が、その想いを紡ぐ事が無くても……。 『待ってても、いいか?』 キスをしても、多分、抱いてしまっても。 俺を受け入れるだろうと思えた紗也の口唇の端に口付けた。 さっきまでの激るような熱も劣情も、全てが凪いで行く…… そんな、気がした。 『紗也が、好きだ』 紗也を苛む、その哀しみを取り除いてやりたいと思った。 いつか、その柔らかな笑顔で俺を好きだと云って欲しいと…… 切に願った―――… 昨夜は紗也が落ち着くのを待って、隊舎まで送り届けた。 その前に……。 全裸に近い状態だった紗也を思い出して、俺を落ち着かせるのが一苦労だったけどな……。 いつものように手を取れば、少し躊躇いがちに力が込められた。 大丈夫だ…… 紗也は此処に在る。 俺の隣に在るんだと、その温もりに酷く安堵した。 「…………副隊長」 とにかく、今日も紗也の所に行って 「………佐木副隊長っ」 大丈夫だからってちゃんと言ってやんねぇと…… 「檜佐木副隊長っ!」 「煩っせぇよっ!!!考え事の邪魔すんじゃ無……」 「すみませ―んっ!!!」 「…………」 ヤベぇ。 此処が副官室だって事をすっかり忘れて昨夜の事に意識を持ってかれてたらしい。 必死に呼び掛けていたらしい四席が、扉の外で震えちまっているのを見て、あ――… と誤魔化すように濁して手招いた。 「…………は!?」 「すみませんっ!!!」 「まだ何も言って無ぇだろうが」 つーか、 「今日からだったか?」 「はいっ!すみませんっ」 「だから一々謝るんじゃねぇよ」 本当に有り得ねぇ…… どれだけ紗也で一杯一杯だったんだよと自分に呆れる。 こんな毎月の決まり事を忘れるとかもう、終わってんだろ……。 しかも、それを伝え損ねたって事が俺には大問題で……。 チッと洩れた舌打ちに四席の野郎がまたビク付いたが、もう構っちゃ居られなかった。 誰かに伝言を託す事も出来ねぇ。 「大失態だろ……」 昨日の今日で、一番紗也の傍に居てやりたい時に何をやってやがると、有り得ない失態に俺は半ば茫然頭を抱えた。 |