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「一緒に出掛けるって言ったら、友達に羨ましがられたんですよ」
何がそんなに嬉しいのか、だから今日は一日ずっと一緒に居ろだのと勝手な事を抜かしながら手を引くコイツの隣に、諦めにも似た心境で立つ。
『私の事は良いから休んでて!』
紗也、なら……
そう思う自分を、もう止める事はしなかった。
滅多に取れねぇ非番が当たって、しかも其れに合わせて非番を代わって貰っただの微笑う顔に、もうあからさまな溜め息を吐いてしまう。
『悪いが、一緒に居れるとしても午後からな』
え…… と、少し不服そうな顔にまた溜め息を吐いて、もう一度 悪いなとだけ告げた。
お前ら平とは違って一月ぶりのまともな休みなんだよと、口に出掛けた言葉は慌てて飲み込んだ。
紗也とは何もかもが違う。
比べる事に意味は無ぇ。
其れが解っていても尚、止められない何かが騒めいた。
好きな女と居る時間が苦痛って事は無ぇよな……。
結局……。
昼からと言った言葉も通じなかったのか、部屋に扉を叩く音が聴こえたのは昼にはまだ遠い時刻。
微かな霊圧に舌打って戸口へ向かい、仕度を待たせる間も決して中へと踏み込ませる事はしなかった。
付き合っている訳でも無ぇのに、最もらしい顔で踏み込もうとするコイツに苛々が増す。
鼻に掛かる声が耳に付く。
あんなに気を惹かれたはずの笑顔には、あの、六番隊に顔を出した日からずっと違和感を覚えるばかりで、不快感が増すだけだ。
コイツじゃ、ない……。
もう答えは出ていた。
何故『そう』だと思ったのか、どうして紗也を手放したのか、悔やんでも悔やみ切れねぇ、けれど……。
「次は彼処の店のっ…………檜佐木副隊長?」
不意に足を止めた俺に、どうかしたのかと彼女が訊ねて来る。
どうしたもこうしたもない。
「悪い……」
本当にもう無理だ。
もう、一歩足りとも動けねぇ。
在ったはずの陽は疾うに沈んだ。
「此れ以上はもう、お前には付き合えねぇ」
此れ以上、誤解を招くような真似もしたくない。
もう二度と、紗也を傷付けるような真似はしねぇ。
もう、何もかもが遅ぇのかも知れない、けれど……。
其れでも、気付いちまったらもうダメだろ。
コイツと居たって、考えるのは紗也の事ばかりで、一緒に居たいのも、傍に居て欲しいのも……
修兵――…
紗也だけなんだ……。
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