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「待って下さいっ」

「本当に、悪い」


駆け出そうとした俺を止める言葉と声を振り解いて、今度はちゃんとした謝罪と共に頭を下げた。


別れたつもりで、俺は本当の意味で、理解していた訳じゃ無かったんだと気付いた。


紗也を手放した、其の意味に……。


ずっと目で追っていた。

探して、気にして、視界の端に捉えては安心していた。

紗也が誰かのモノになるなんて、思ってもみなかった。


「何でっ……」


嫌です、どうしてと繰り返す。

泣いて、顔を歪める彼女を見ても、あの別れの日にも、紗也は泣く事はしなかったと紗也の事しか考えられない。

紗也と別れてからも、其の前、も……。


お前じゃ無いんだ。

紗也を傷付けてまで一緒に居ておきながら、コイツを愛しいと思った事は無い。


だったら、俺はどうして『そう』思ったのか?


紗也と過ごす時間は穏やかで、ずっと、このまま続いて行くと疑いもしなかったのに……。



『アンタがこんなに莫迦だとは思わなかった』


近過ぎて、本当に大事なモノまで見えなくなってんのかよっ



副隊長になって直ぐの頃。
入隊して来た紗也に俺が惚れて、形振り構わずに自分のモノにした。

誰にも渡したくなくて、傍に居て欲しくて、俺の帰る場所にしたくて……。

出逢った時から、ずっとずっと……



檜佐木副隊長……



「っ…………」


……俺を呼ぶ、躊躇いがちに微笑んだ其の表情が好きだった。


茫然と、我に返ったようにゆっくりと向けた視線の先。

其処には……


違う……。


こうして気付いた今だって、そう思って見ても探し出せない程度のモノ。
其れが、出逢った頃の紗也に、似ていると思った、からだ。


惹かれたのは、思い出の中の紗也。

触れた何かは、其れは……


目の前が、真っ暗になった気がした。


「だからって……。もう四宮さんとだって、元に戻れる訳じゃないじゃないですよね……っ」


そんな言葉に性懲りも無く胸が抉られる。


そうかも知れない。

そんな事は解って居ても、
其れでも、


「悪い……」


俺は、紗也を失くしたくない。

泣かせたままで居たくないんだ……。









「四宮さんは……。今日、檜佐木副隊長のお部屋に片付けに行ってますっ……」

「っ……」


阿散井副隊長と一緒に……


踵を反した俺に背後から掛かった声は、駆け出そうとした俺を止めるに十分で、茫然と其の声の主を見遣った。


まだ、紗也が俺のモノだと勘違いしていられた理由。

其れが今度こそ消える。


「偶然、聞いて。其れで……、四宮さんと檜佐木副隊長を会わせたくなくて……。謝って済む事では無い……ですけど」



本当に、すみませんでした。


「早く行ってあげて下さい……」

「お前……」


涙で歪む顔を必死で耐えて、俺の背を押す其の表情は、やはり何処か紗也に似て……


「本当に、悪い……」

「もう良いですからっ」


踏み出した足を止めて、もう一度と振り返る俺に、だから早くと言うコイツもきっと悪いヤツでは無かった。


「悪い……」


そう思っても、
其れでも――…





叶うなら、もう一度、俺の傍に居て欲しい。

二度と間違ったりしない。
二度と、手を放したりしないから……


まだ俺を消さないでくれと、必死に駆けながら祈った。



大事なモノは……



あの日の俺は、其れをちゃんと解っていたのに――…







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