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 08


『おはよう……、ございます。檜佐木副隊長』


翌朝、出舎した九番隊で、挨拶をと声を掛けようとした修兵の、其の表情に全てを悟って目を閉じた。

其れは、修兵があの日の、あの終わりの日と同じ冷たい雰囲気を纏って居たからだ。

こんな所にまで何をしに来たと言われなかっただけまだ増しだろうか。厄介な事に、どちらの記憶も混在して居るらしい修兵は、罰の悪そうな顔で私から目を逸らし、副官室から退室して行った。

其の後ろ姿を溜め息と共に見送って、やっと私の役目は終わったんだと言い様の無い想いが込み上げた。

此の、予測しえた終わりでさえ、ただ繰り返し私に傷を付けただけだったと……。







「……其れで、私はいつになったら五番隊に戻して頂けるんでしょうか」


もう私の役目は終わったはずで、修兵の記憶が戻るまでとの約束だったはずですと直談判すれば、真子が未だ置いといて良いと言ったからとシレッと返された。


「っ…………」

「あの出っ歯、とか思わなかったか」

「……思いました」


あれから一週間。いや、もう十日にはなるだろうか。

話が違うと言えば、そんな簡単に隊は動かせねぇよとふざけた事ばかりを返される。簡単に異隊させておいて何を言うかと眉間に皺が寄った。


「では!せめて補佐からだけでも外して下さい。私は五席なんですから……」


私は補佐の立場には無いし、元々修兵には補佐なんて居なかった。

修兵の記憶が戻った今、公私に渡って私は不要な物で、私の願いは切実だ。時折何かを言いたげな修兵の態度にも居たたまれなさが増すだけで……


『辛、い、です……』


阿近さんに縋ったあの日のまま、何の状況も変わらないままだ。


「もう、解放して下さい……」


撫ぞるように繰り返された記憶は傷口を抉って、更にと深い裂傷を痕して今も私を苛み続ける……。


「私、は……、っ……」


終わったつもりで居て、本当の意味で終わりを受け入れて居なかったんだと気付いた。

今もまだ、こんなにも辛いんだと……


「分かった」

「…………」


とうとう堪えていた涙が溢れ出た私に、ふーーっと長く息を吐き出した六車隊長が、泣かせる為に補佐にした訳じゃ無ぇと了承を下さった。


「俺は、お前に其の続きを見せてやりたかったんだけどな」


なんて、また最後の最後になって訳の分からない事を言う。

私の頭にぽんと手を置いた六車隊長は、苦笑いで私を見詰めていた。





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