log | ナノ



  09


不在の間に出てしまおうと戻った副官室には、運悪く修兵の姿が在った。

だけどそんな事を気にして居るのは私だけ。私が入室しようがしまいが、修兵にとってはどうでもいい事だ。

一瞥もくれる事の無い修兵に、未だ痛いと思う自分が嫌になる。

もしも修兵の記憶が失くなったりしなければ、私達はきっと二度と関わる事は無かっただろう。
終わりを繰り返した今だって、私の気持ちはあの日に置き去りのまま、辿り着いた場所に何の変わりも無かったけれど……。


「あの……」

「…………」


黙々と続けていた作業の手を止めて修兵に声を掛ければ、案の定な無言で返されて、既視感に泣きたい気持ちにさせられた。

あの時と同じ。返る事の無い返事が、私達の終わりなんだと言われているようで、其れが悲しかった。


「本日を以て、また五番隊に戻る事になりました……」


伝えたい事は、本当はもっと、違う、私の想いで。


「……今まで、あの。ありがとうございました。檜佐木副隊長」

「…………」

「其れで、ですね……」


もっとちゃんと、上手く伝えられたら良いのにと息を吐く。こんな、最後の最後になった今でさえ、言葉に出来ない自分が嫌になる。

重なった熱を憶えている。

けれど、今がこんなにも遠くて……。


「檜佐木副隊長、私、」

「だから何で敬語なんだよ」

「は……って、え……?」

「敬語で話し掛けたら返事はしねぇって……」


言ったよなって……


「其れは……」


だから、其れを言ってくれたのは……


「修兵……」

「ごめん、な。紗也……」






もしもあの日、俺がちゃんと紗也の話を聞いて居たなら。出て行く紗也を引き止めて居たなら。

遠ざかる霊圧を追い掛けて居たなら……。

今も紗也は俺の傍に居たかも知れない、なんて、もう無いモノを想っては絶望していた。


諦めろ。

そう何度も思っては否定した。きっといつになったって俺には耐えられないんだと……。


虚の能力に沈み込む意識の中、やり直したいと強く願った。

目覚めた先に、紗也が居れば良いと……。

其れが、こうして紗也を苦しませる事になった伏在された理由。





「ごめん、な……」


あの日、俺は紗也の不安に気付け無かった。

あの日の事は、紗也が出て行って暫く経った頃。記憶に無い通信記録に気付いて、直ぐに問い質した連中によって知らされた。

謝りに行け、そう何度も思っては動けなかった。

今更と思われようと、どんなに格好悪くても。こんなにも後悔するくらいなら……。


「ちゃんと伝えて謝りたいと思った。けど、肝心な事を思い出すのに結構時間が掛かった……」


だけどもう、間違いたくは無いんだ……。


「悪いけど、俺の中はまだ紗也で一杯で、終わりになんてしてやれねぇから……」


もう無いんだと言ったモノは、未だ俺の中に確かに在って、其れはとてもじゃねぇが消してはやれない。


「紗也が、好きなんだ……」







「……何で、何も言ってくんぇの?」

「………っ」


何を伝えても、紗也は俺の腕の中で押し黙ったまま、ぼろぼろと涙を溢すだけ。

言いたい事は今と、記憶の無い俺が全て伝えて来た。けれど、


「紗也……」


今思い起こしても、あれ只の我慢大会だっただろと本気で思う。


「何も言わねぇなら、文句は後で纏めて聞く」

「修兵?……っえ、待っ……」


どっちの俺も相当に、ずっと我慢して来たんだからなと、待ってと否定の言葉を紡ごうとする紗也の声を口唇で塞いだ。





prev / next

[ back ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -