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  04


「修兵……」

「………………」

「っ、修、兵……っ」

「…………解ってるっつのっ………つーか!だっあぁああああっ!もうっ」


いつになったら抱いて良んだよっ!!!


「修兵………」


俺を殺す気かっ!と叫ぶ修兵に、状況も何をも忘れて呆れた。





『ご自宅に戻られても構いませんよ』


もう躯は何ともないと言う、修兵の再三の嘆願に折れた卯ノ花隊長の冷笑により、退院が許可されたは良いものの。


「何処に行くんだよ……」


帰宅しようとすれば引き留められた。ぐっと捕まれた手の力は強くて、私は、其れを振りほどく上手い言い訳を見付けられずに眉根を寄せた。


此処へは来たくなかった。


二度と来る事は無いと思っていた。もしかしたら、道中のそんな想いを気付かれていたのかも知れない。


一年以上、もう二年近くになるだろうか。
あの日以来の修兵の部屋は私が出た時のままになって居て、あの日の彼女はまだ此処に来た事は無いのかと、ほっとする自分に嫌悪した。

そんな自分を見たくは無くて、一刻も早く立ち去りたいと願うのに、離されない熱が其れを許そうとしない。


「やっぱり俺ら……、喧嘩でもしてたのか?」

「っ……」


其れでも、修兵の匂いしかしない修兵の部屋は彼にとっても不自然だったのか、ずっと気になっていたと言う、不安げに向けられた瞳に言葉が詰まった。


言ってしまうべきなんだろうか……。


『まだ、此れ以上の動揺をさせないでやってくれねぇか』


そう言って、頼むと頭を下げられてしまった、六車隊長を思い出して躊躇った。


「………あ、のね」

「悪ぃっ!!!」

「っ……え?修兵……?」


少しの逡巡の間に、ガバッと音がする勢いで頭を下げられて驚いた。


「本当に、悪い……」


どうせまた俺が悪いんだろうと、いつも素直に謝る事も出来ねぇでと紡がれる言葉が胸を締め付ける。


「赦してくれるまで謝るから、だから……、出て行くなよ」

「………………」


ダメか?と必死な修兵に、あの日の記憶が蘇って涙が溢れた。


「『紗也……っ?』」


泣き出した私に慌てた修兵が私を抱き締めて、ごめんと繰り返した。


違う……。


頷く事も出来ずに、ふるふると首を振る私の涙を修兵は理解しては居ないだろう。


もしも、今の言葉をあの日訊けていたなら……?


私は莫迦だと、そんな風に思う自分の浅ましさに辟易しただけ……。



「……えっと、ほら、阿近さんだって頑張って検査……修兵?」


ああ、またかと苦笑が洩れる。

修兵は阿近さんの話になると、とても不機嫌になる。あんなに親しかった彼を、角のヤツと呼んで、何故か敵意を剥き出しだ。


「紗也は……」

「うん?」

「此のままで平気なのかよ」

「此のまま、って……」


そろそろ我慢も限界、と、またギュッと抱き締められて頬に口唇を寄せられる。髪を掬って露にされた首筋を食まれて躯が反応した。


「抱きたい……」

「っ……」


抱き締める腕の強さで、修兵の我慢が伝わって来る。


『虚に依る感染症の疑い有り』


阿近さんがでっち上げてくれた嘘の報告書に寄って、私の平穏は護られている。

修兵が、私に感染すような真似はしないと解っている私の、此れくらいの主張は赦されるだろうと……

私は、修兵には気付かれないようにと息を吐く。


「………もう、少しだから」


ね、と死覇装を握り締めれば、「……おう」と納得したのかしないのか、少しだけ不服そうな声が聴こえて眉を垂らして苦笑した。


本当にもう少しだから……。


修兵はもう直ぐ思い出す。私なんて、取るに足らない存在なんだと……。



「紗也が好きだ……」



そんな感情なんて、もう何処にも無いんだと――…





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