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  05


「四宮さん。此の書類なんですが、檜佐木副隊……」

「紗也っ」

「……修兵」

「あ……では、宜しくお願いします」

「あ、待っ…………、もうっ」


修兵っ?と睨み付ければ、其れ以上の不機嫌さで以て副官室に連れ込まれた。


「苦しいよ、修兵……」


無言のまま、ぎゅうぎゅうに抱き付かれてそっと溜め息を吐く。


修兵は、私が誰かと関わるのを嫌う。

其れでも、


「修兵は九番隊の副隊長で、私は其の補佐になったの。修兵もやっと復帰出来たんだから、隊務に関わる事はちゃんとしないとダメでしょう?」


入院中は病室で、退院後は修兵の部屋に持ち込んでこなしていた仕事を、やっと九番隊で出来るまでになったって言うのに、修兵にとっては知らない人達の中、とんでもない独占欲と警戒心を発揮してくれている。


『まぁ、所謂精神安定剤ってヤツだ』


六車隊長の莫迦っ……。


異隊までさせられていた事にも唖然としたが、此れについても、私に拒否権なんて物が在る訳も無く……。


『解り、ました……』


記憶が戻るまでと了承した。


『四宮』

『はい』

『…………檜佐木を頼む、な……』


退室しようとした私に掛かった声は、打って変わったように真面目なモノとなって届いた。

全てを見透したような視線が居心地が悪くて、一礼だけで隊首室を後にした。


九番隊が嫌な訳ではない。


修兵と長く付き合っていたからだろうか。

以前と変わらない認識のまま迎え入れてくれた事に、少しの安堵と居心地の悪さも感じる。


出来るだけ傷は浅く済ませたいと願うのに……


「ちょっと複雑かも……」

「何がだよっ」

「っ……だからね。皆は修兵の敵じゃないんだから、あんまり威嚇しちゃ」

「アイツらっ……紗也に馴れ馴れしいんだよっ……」


お前は俺のだろ……


そう言うや否や、あっという間に其の場に押し倒されて瞠目した。


「修兵っ……」


いつもなら、直ぐに止まってくれる口唇が、躯を辿る手のひらが……

熱くてっ――…


「ーーー…っ、ダ、メ」

「……んでだよっ」


此れだけはとお願いした修兵との生活は、此れさえ無ければまだ耐えられるのにと胸が痛む。

はっ、と息を逃した修兵が胸に顔を沈めて、私をキツく抱き締めた……。




阿近さんを信用していない修兵は、一向に進展を見ない検査其の物に疑問を持ち始めている。

抱き締めて触れる。

其れ以上の接触は無いものの、流れる日々の中、修兵の疑念は増すばかりのようだ。


まだ……、なの?


隊務をすっかり憶え直し、記憶も取り戻しつつ有るものの、私との記憶に関してのみ進みが緩慢なように感じる。


「何で、嫌がんだよ……っ」


触れるだけ……。


なら良いだろうと伸ばされる手に、目眩がした。


「『紗也が好きだ……』」


そう繰り返し言葉をくれる修兵に、そんなモノはもう無いと解っていて、引き摺られてしまいそうになる。
どうしたと見詰める優しい瞳に、私だって、ずっと修兵が好きだったよと内心で呟いた。



「修兵……」

「紗也?」

「……何でも、ない」




今は無い想いを紡ぐ。

君は、なんて残酷なんだろう……。




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