▼ 03
私達の終わりは修兵からだった。
心変り…… では無かったのかも知れないし、そうだったのかも知れない。只の浮気だと言われても、私に其の事実を知りたいと望む強さは残っていなかった。
そんな事はもう今更で、私にとってはもうどうでも良い事だ。
私にとっての真実は、何の言い訳もされ無いまま、本当に呆気無く終わりが訪れたという事だけ……。
急用だと予定をキャンセルされた夜。
着信を知らせた伝令神機は、確かに修兵の名前を表示していた、のに……
『はい?修兵、どうし……』
『アンタ、誰?』
どうかしたのかと慌てて出た伝令神機の向こう、聴こえた声は、修兵のモノでは無かった。
誰って……
『……此れは、修兵の伝令神機、ですよね』
『だから、アンタは誰って訊いてんのよ』
高圧的な声音の後ろで、耳に遠く聴こえたのは愉しげな笑い声。
『私、は…………』
『修兵は今、私と居るのよ』
―‐――――……
ブツッ 切られた通話と共に、世界から遮断されたような感覚に陥った。
ツ――…と、ただ鳴り響くだけの機械音。
私は………。
修兵の、彼女だよね。
シン と静まり反った一人の空間で、嫌な感情ばかりが渦巻いていった。
『そんなに俺が信用出来ないなら、好きにしろよ』
別れたいなら俺は其れで構わないと、暗に示された言葉は酷く冷たく響いて、何の言い訳もされないまま向けられた背は、他人のように思えた。
『昨夜は誰と居たの?』
あの女性は、誰……?
明け方近くに帰宅した、少し気だるそうな修兵に訊ねた。
責めるつもりなんて無かった。ただ、不安を取り除いて欲しかった。
安心したかっただけ。
そんな私に返されたのは、本当でも嘘でも無い、只の終わりの言葉だ。
言い訳でも良いから……
『何か、言ってよ……』
ぽつりと溢した声が、修兵に届いたかどうかは知らない。
不機嫌を顕に寝室へと消えて行く後ろ姿を見送って、直ぐに最低限の物だけを纏めた。
修兵が起きる前にと家を出て……
私達は、其れきりだ……。
修兵は追い掛けて来てはくれなかった。其の後も、何を言ってくれる事もなかった。
修兵が誰かと噂される度、性懲りも無く傷付いた。
もがいて、足掻いて、修兵を忘れる為に要した時間は、私にとっては計り知れない。
のに……
「何、でよ……」
もう良いじゃない。もうっ……
「何度も私に終わりを見せるのは、止めてよ……」
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