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  05


「報告は良いからちょっと来い」


現世から戻った私を見るや、捕らえるように私の腕を掴んだのは阿散井副隊長で、有無を言わさずズルズルと副官室へと引き摺った。


「…………」


ドカッと長椅子に腰掛けて、私にも座れと視線で促す。其れに観念して腰を下ろせば、落ち着く間も無く発せられた言葉に息を吐いた。


「昨夜の……」

「そう言う訳ですから、もう檜佐木副隊長には帰還報告もしないで下さい」


もう迷惑なだけですからと目を伏せれば、阿散井副隊長の瞳が見開かれた。

「昨夜の事が原因なら」と身を乗り出す阿散井副隊長は、色々とご存知なんだろうなと思えば余計に辛くなる。

尸魂界に着いて直ぐに聴かされた心無い噂は、私にはまだキツいものがあった。

事実は、こんなにも痛い。


「違います。………違わない、かも知れないけど……」


其れが直接の原因じゃないから、別に良い。

修兵はもう私を好きじゃないんだって、ずっと気付いていて知らない振りをしていただけだ。

私じゃあ修兵を笑顔にしてあげられないんだって、私はもう、修兵が一緒にいたい存在じゃないんだなって……


「解ったから……。もう良いんです」


そんな事は無いと慌てて否定してくれる、優しい阿散井副隊長には苦笑いで首を振った。


好きで、好きで……。
傍に居られるなら其れだけで良いと思っていたはずなのに……

辛いと、思ってしまった。

本当はずっと、哀しかった……。


「頑張るのは、もう止めにします」


頑張れば頑張るだけ、其れが修兵の迷惑になるとか……。

好き、だけじゃ限界が在ると知った。
好かれてないと解っていて傍に居るのは、虚しいだけだった。


いつからだったろう。
話し掛けても返らない返事を諦めたのは。
面倒臭そうな表情に、気付かない振りで微笑えるようになったのは……。



『誕生日は二人で何処かに行ったりするの?』

『……忙しい、みたいだから、家でゆっくりすると思う』


嘘じゃない、けど本当でも無い。


『檜佐木副隊長と一緒なら何でも良いわよねーっ』


良いなぁと笑う友人に内心で溜め息を吐いて、修兵は誕生日に私と居たいなんて思ってもいないよと苦笑した。



『五分でも、一分でも良いから……』



そうしたらまた頑張れる。
其れだけで、私は……


なんて、そんな事に意味なんて無かったのに……。



『私はもう、無理みたいだ……』



口を吐いて出たのは、全く逆の言葉で。

私はもう、何も知らない振りで笑う事は出来なかったみたいだと知った……。









「終わっちゃった……」


しん とした一人きりの空間は、耳を覆いたくなる程に小さな呟きをも無駄に拾って響かせてくれた。

一人になって、初めて襲い来る喪失感。

あの時もそう。
切れた通話の音を茫然と聴きながら、自分が言った言葉が信じられなかった。

此れでもう、修兵の隣は私のモノじゃないんだなって、もう我慢しなくて良いんだって、私を見ない修兵をもう見なくて良いんだって思ったら……

じわじわと競り上がるような恐怖を感じてキツく瞳を閉じた。


「どうせ終わっちゃうなら……」


もっと、もっと……。


我が儘を言って困らせて



「好きだって、云えば良かった……」






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