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  04


『修兵』と話し掛けたのは何度目だっただろうか……。

壊れそうな胸の痛みに必死で耐えながら笑顔を貼り付けた。
修兵が疲れて居るのは解っていて、本当だったら食事の片付けを済ませた時点で、さっさと帰ってあげれば良い事も解っていた。


『修兵、聞いてる?』


新しく刷り上がった瀞霊廷通信に目を落としたまま此方を見てもくれない。


ほんのちょっと、五分で良いから話を聞いてくれたら其れで済むのに。


面倒臭そうに、だんだんと苛々を隠しもせずに生返事を繰り返す修兵に泣きそうになった。


隊長権限代行となった修兵の忙しさは以前の比では無くて、出来れば私だってこんな事はしたくない。ずっと、修兵の負担にならないようにと心掛けて来たつもりだった。


『何だよ……』

『っ……』


誕生日くらいはと望む事も、いけない事だろうか。


あからさまな溜め息と、聴こえた舌打ちに躯がビクリと反応して、もっと面倒に思われると判っているのに言葉に詰まった。


修兵はもう、私からの言葉なんて望んでいないのかも知れない。


去年してくれた約束も、修兵にとっては面倒なモノでしかなくて、

私は、もう……


最悪な答えが胸に浮かんだら、修兵を責める事さえ出来なかった……。


其れが正解だと、心の何処かが叫んでいた。





『ああ、と、ちょっと待て』


やっと話を聞く気になってくれた修兵に今日の目的をと口を開けば、嘲笑うように鳴り出した機械音に遮られて、此のタイミングの悪さに自嘲した。

相手を確かめる必要も無く、受話器越しに聴こえた『呑みに行くわよ〜』との陽気な声に彼の女性を思い浮かべる。


今更……。


別に乱菊さんとの事をどうこう言うつもりなんて無かった。
其れでも、間髪置かずに紡がれた修兵の言葉が、其の表情が、私を絶望へと叩き落としてくれた。


『良い……、っすけど、いつっすか?』

『火曜日は私、非番なのよね!だから月曜は朝まで思いっきり呑むわよ〜』

『あー…はい。解りました』



っ…………



じゃあ月曜にと、さっきまでとは打って変わった様子で、尖っていた気も表情をも緩めた修兵が了承を告げるのを、とても見て居られなくて瞳を伏せた。


月曜は、私と約束してたのに……。


私の話なんて聞いてもくれない修兵が、乱菊さんの言葉には、いつかも訊かずに肯首する。

私と居たって……



修兵は、笑ってくれない。





私はもう、大事な日を一緒に過ごしたい相手ではないんだと、今頃 乱菊さんと過ごして居るんだろう修兵を思っては、まだ痛む胸に辟易した。


「莫迦みたい……」



『五分だけ、一分でも良いから会えないかな……?』



事実を突き付けられて尚、みっともなく足掻く事だけはしなくて良かったと自嘲の笑みが洩れた。



『そんな大した用でも無ぇんだろ』



「『………そうだね』」


修兵にはそうだったよねと、気付かない振りを止めた。


一方的な約束なんて虚しいだけだって、もっと早くに、諦めていれば良かった……。



往生際悪く手にしていた伝令神機の日付が十四に変わった。



『来年は、一番におめでとうって云わせてね』



浮かんだ、去年の自分の言葉に苦笑が洩れる。


来年もずっと、修兵と居たい。


そんな浅ましい想いなんて籠めるからこんな事になる。


「っ、…………」


ピリリ…… と手の中で震えた伝令神機に心臓が跳ねた。


「……………………」


じわっと湧き上がった涙を乱暴に拭う。
確認したディスプレイに表示された名に息を深く吐き出して、ゆっくりと通話釦を押した。


「はい、四宮です。…………はい、今出ます。え?………………だから大丈夫ですって」


何度も言ったじゃないですか……。



解っていた。

解っていて、解らない、見えない振りをしていただけだ……。



修兵とは、もう……

終わっていたんだって……。






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