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  06


「誕生日おめっとうさんです!」


書類の配達がてら、序でとばかりにおめでとうを口にする阿散井に眉根が寄る。

何も考えてねぇような能天気な面に、適当に云ってんじゃねぇよと昨夜からの焦燥が増すばかりで、自然霊圧も刺々しい物となる。


「…………何だよ」


そんな俺に、いつものように文句を言うでも無い。まるで観察するかのような視線が気に障る。


「いや、噂が本当なのか確かめに来たんすけど……」

「………………は?」


本当凄ぇ不機嫌っすねと、くっと口角を上げる阿散井の話に寄れば、誕生日の決まり文句を告げる度、俺に射殺されそうになると噂されて居るらしい。


「だったらどうしたよ」


そんな噂なんて何の問題も無ぇ。そんな事より、俺が乱菊さんと二人であんな流魂街の外れで呑んじまってたせいで、紗也には不名誉な噂が流れちまっていると聞いた。


本当に、自分の軽率さに反吐が出る。


何とかしねぇとと気ばかりが焦っても、今の俺が何を言っても助長するだけだと知っている。

傷付けて、此の上、何もしてやれねぇのかと思えば物も言えねぇ……。


「…………」

「……何だよ」


もう満足しただろうが。


まだ何か用かよと睨み付ければ、


「っあーいや、其れで怖いもん見たさで書類の配達序でに来てみたんすけど」


マジで怖ぇっすねと、全然怖がって無ぇ顔で阿散井がニヤニヤと笑う。


煩ぇよ……


「用が済んだならさっさと……」

「紗也にまだ言って貰って無ぇんすか?」

「っ…………」


図星っすかと訳知り顔で……。


「喧嘩でもしたんすか」

「……違ぇし」


んな簡単なもんなら、こんなに焦れちゃいねぇ。
そんなんじゃねぇから質が悪ぃ。

喧嘩なら謝って、謝り捲って許して貰うまで抱き締める。

けれど今は、謝る事さえ許されない。
紗也は、怒ってる訳じゃねぇんだ……。


『俺は、別れる気は無ぇよ……』


やっと口を吐いた言葉は情けない程に震えて、途切れた伝令神機には拾われる事は無いまま闇に消えた。

当たり前に在った笑顔も、行って来ますの声も聴けない。
抱き締めて、無事を願う事も許されない。


もし、このまま紗也が戻って来なかったら……?


そんな不安ばかりが頭を過って、今まで一番に知らされていた紗也の安否も現状も、二度と知らされる事はねぇのかと思えば震えが走った。


「…ヤ、ベぇ……」


吐く……


思えば思う程、じわじわと沸き上がる喪失感。
失くさねぇと解らねぇ。
慣れって怖ぇと思ったってもう遅ぇ。

当たり前が当たり前じゃ無くなる日が来るなんて思いもしねぇ程、紗也は傍に居たのに……。



「………………」

「……良く解んねぇっすけど、何か間違えたんなら直ぐに行った方が良くねぇっすか?」


押し黙る俺に掛かる、さっきとは変わった阿散井の諭すような声音。

何だよ、まだ居たのかよと眉を顰めて視線をくれた。


「だから、」

「言い訳もして貰えねぇのはキツいっすよ」

「っ……」


自分の思った事だけが、真実になっちまうだろ?


「…………」

「何すか」


お前絶対、紗也から何か聞いただろ。
俺がこんなに、紗也に会いてぇっつーのに……


「紗也は……」


泣いてたか、なんて。何か言ってたかなんて。

そんな大事な事は直接聞かなきゃ意味が無ぇ。


「…………何処だよ」

「さっき戻ったって顔を出してったんで」

「っ……」

「そろそろ部屋に戻ってんじゃねぇっすか」


正か、知らねぇ訳ねぇすよねって態とらしい口調は止めろ。


「……もう直ぐ十時っすから、上がっても良いんじゃねぇっすか」


今度こそ日付が替わっちまいますよと、阿散井が苦笑を向けた。







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