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さぁ、このどうしようもない片想いを、終わらせに行こうか……。「私、は……」
この想いを消せる方法が在るのなら、何だって良かった。
この人を忘れてしまえるのなら……。
なのにどうして。消えてしまったはずの記憶が私の中に残っているのか。そしてどうして、今ここにこの人が居るのか……。
その答は全部、頭に浮かんだ彼の仕業に違いないと苦笑いが溢れた。
『それでも、此処の痛みまでは消えねぇぞ……』
なんて、本当に消すつもりなんて無かったくせにと今頃したり顔で薄く笑んで居るだろう阿近さんを恨みがましく思う。
想いも、痛みも……。結局失くす事は出来いのかと口唇を噛んだ。
どこか不安を孕んだ瞳で触れるのを躊躇うように手をさ迷わす、私を拒んだはずのこの人は、これ以上私に何を望むのか……。
『っ……、苛、つく……っ』この人、は……。
初めて逢った時からずっと、私には、怒ってばかりだ……。
「……私は、貴方が好きなんです」
あの日、言葉にする事さえ叶わなかった。こんな想いを、今こうしてこの人に告げる事に意味なんて無いとも解っている。
「紗っ……」
「でももう、」
好きって凄いと思った。好きで、好きで、片想いでも幸せだと思っていたけれど……
「ツラい、です……」
側に居る。それがこの人の仕事なら、それを私に拒む理由は無い。
どうして私に触れるのか。その答ももう、要らないから……
「私にはもう、触れないで……。構わないで、下さい。もう……」
抱き締めて、触れて、キスを……
「彼女が、居るのに……っ」
泣きたくなんてないのに、未だこうして溢れ出る涙が嫌になる。けれど、これも最後だとそのままにした。
「……監視、は諦めるので、それ以外でもう私に関わるのは止めて下、さ……っ、や…っ……待っ……」
触れないで、と、云っているのに、乱暴に引き寄せられた瞬間、口唇を塞がれた。嫌だと身を捩っても直ぐに絡め取られて逃げる事は叶わない。
「………ゃ、っ……」
私の抵抗なんて、この人にとっては、やっぱり何の抵抗にもならないのかと悲しくなる。難無くと躯ごと抑え込まれて捕らわれた。
「どう、して……」
もう止めて欲しいと精一杯の視線を向けた、この人の……
「どうして……?」
「っ……」
今まで、見た事の無い強い、強い眼差しに息を飲む。
「だから俺は、話をさせろって言ったよな……っ」
今、初めて……
私を組み敷くこの人の瞳に、劣情を見た気がした……。
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