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  きっと同じだった


「そうだ、少し気になった事が有るんですが」


ちょっと訊いても良いですかと言えば、何だよと優しい顔で促された。


何て言うか、今日はこの人の機嫌が頗る好くてむず痒い。

仕事が順調だったのか何だったのか知らないけれど、いつもより早い時刻に現れて、のんびり過ごすこと既に一時間強。
まだまだ帰る兆しも無く、時折何でもない会話はするが、基本は付かず離れずただ傍に居て、いつものように私を眺めるだけだ……。

じ――…っと、見続けられるのも居心地悪い事この上無い。

けれど、それにだんだん慣らされつつ在る自分が怖くもなる。


「で、何だよ」

「……あ、えーっと。一応、副隊長さんなんですよね?」

「まだ信じてなかったのか手前ぇ……」

「えっ!?いや、流石にもう信じてますって!」


穏やかな空気が一転、だから何で直ぐに怒るんですかと問えば、お前の言い方がまどろっこしいからだと怒られた。

結局また怒られるって本当、何なんだと思ってもそこはこの人、諦めが肝心だ。


「それで?」

「もう良いです」

「訊けよ」

「だから何でそんな我が儘なんですかっ」


怒って拗ねて文句を云って、本当に子供みたいだ。

もう知らないとまた読んでいた漫画に目を落とした私が面白くないのか、まるで構えとばかりにしつこく訊いて来るから性質が悪い。


「……はいはい。だから大した事じゃ無いんですけど」

「おう」

「何歳なんですか?」

「…………」

「本当にちょっと気になっただけなんですけど、副隊長って事は思ったより年なのかなって思って」

「…………」

「正か見た目通りって事はないですよね」

「…………」

「それともやっぱり……って、聞いてます?」


一人で喋ってる私が莫迦みたいじゃないですかっ


返事が無いのを怪訝に思って目を向ければ、難しい顔で押し黙る死神が居て首を傾げた。


「あの……?」


そんな言い難い事でも訊いただろうか。

死神と言うくらいだから、見た目に反して実年齢は妖怪レベルなんだろうかと思っただけ……っ


「一緒にすんじゃねぇ」

「痛いんですけど……っ」


孫な単行本で叩くのは止めて下さいっ


「言いたくないなら良いですからっ」


別に、しつこいようだがほんのちょっと気になっただけだ。
知ったからと言って何が変わる訳でも無いし、私にとって重要度は低い。

返って来ない返事は特に気にしない事にして、漫画の続きを読むことにした。






「………なぁ」

「はい?」


呼ばれて顔を上げれば、さっきの話、と顔を顰められて驚いた。
さっきってもう……、と確認した時計は長針が点対称な位置に動いている。

今更どうしたのかと窺ってみても、話し掛けておきながら口を開き掛けては閉じるの繰り返し、で……。


「別に、本当に良いですよ?嫌なら無理して答えてくれなくても」


そんなに気にしてくれていた事が意外で、それだけでちょっと嬉しくなる気がするから私も単純だ。


「嫌じゃねぇよ、ただ……」

「ただ?」


逡巡するこの人を見詰めながら、何かそんなに気にする事が在るんだろうかと思ってしまう。

この人が言い淀むような、何か……


「お前の……」

「私…?が、どうかしまし……」

「許容範囲って何歳だよ」

「…………は?」


許容範囲って、何?
って、何でそんな真顔で……


「訳が解らないんですけど」

「俺には重要なんだよ」


だから答えろと言われても、先に訊いたのは私なんですけどと嘆息して見せた。


「じゃあ、年下は嫌です」

「じゃあって何だ」

「文句ばっかり言わないでくれますっ?」


正直そんな事、考えた事も無い。
確りして居れば年下でも好いし、見た目も気持ちも若ければ別に何歳でも好いような気もする。

本当に、私にはかなりどうでも良い部分だったりする訳で……


「じゃあ、好きになった人」

「だから、」

「だから、好きになった人なら、その人が幾つだって関係無いじゃないですか」


だって、好きなんですよ……


きっとどうしようもなく。
譬、何が遇っても想いは変えられない程に――…


「それじゃあ、ダメですか」


貴方は、違うんですか……







「多分、お前の十倍くらいだ」

「はい?」

「だから、年」


聞きたかったんだろって。
詳しくは知らねぇよと、さっきよりは柔らかくなった表情でそっぽを向きながら言う。
ふうんと気のない返事を返せば、それだけかと小突かれた。


すみません、本当にそれだけです……って、


「今度は何で……、そんなに嬉しそうなんですか」


見たことのない、優しい。
まるで、愛しむような瞳で……


「お前が……」


初めて俺の事を訊いたからだろ……


「…………っ」

「聴こえなかったとか言うなよ」


だから何で、今日に限ってそんなに……


逸らされない視線が居たたまれない。

私なんかの、何気ない言葉を嬉しいと思ってくれる事が、こんなにも嬉しいと思ってしまう……


『私で遊ぶの止めて下さい』


いつもなら熟と出て来る可愛くない反論も悪態も、咽を支えて出て来ない。


だから免疫無いんだって言ってるじゃないですか。


紅くなった顔が恥ずかしくて、タオルケットで覆い隠した躯ごと抱き込まれてしまえば身動きだって取れない……。






「顔、見てぇんだけど」

「……やっぱり意地悪だ」

「何でそうなる」




いつもの遣り取り、

だけど、私の声は泣き出しそうに震えていた。


この人の声も、酷く優しいものだった――…











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