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「理由は何でも良いから直ぐに現世に行く許可を申請してくれ」
「え?檜佐木副隊……はい」
春からもうずっと、無茶ばかり押し付けている俺に決して多くは問わず、即応する部下に悪いと内心で謝罪して穿界門に向かう。
「っ、…………」
一刻も逸くと気は急くのに、
手が……、足が震える。
情けなくも震える足をぶっ叩こうとした手が震えていた。
もしも……と沸き上がるのは言い知れ無い恐怖で、手放さない、失くさない為の方法なら嫌と言う程考えて来たと言うのに……。
『アンタが恋ねぇ……』
『…………』
『否定はしないのね』
『そう、っすね……』もしも、此れを恋だと言うのなら……
「だから今更、失くすなんて冗談じゃねぇんだってっ……」
俺は、其れが良いと思った。
*
「…………」
一月ぶりに訪れた部屋で、ベッドに横たわる姿に先ずは無事を確認してほっとする。
然して、
「…………っ」
不意に伸ばした、涙の痕の残る頬に触れようとした手を止めた。
もしも……
と思えば怖かった。
記憶が消えただけなら問題無い。けれど、もしも記憶と一緒に霊力も失くして居たなら……、姿処か触れる事も叶わない。
其の、意味するところは……
「…………っ」
「………、也…」
「…………紗也」
触れる事も出来ずに、ただ呼び掛けるだけの声に反応は無い。
「紗也……」
けれどどうかと、
「、紗也っ!」
「――…、……っ」
「紗っ……」
頼むからと荒がった声に呼応して、ドン と上がった霊圧に見開いた、俺を映した瞳が……
「っ……、苛、つく……っ」
今が不本意であると如実に伝えていた。
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