SSS | ナノ

   47


「理由は何でも良いから直ぐに現世に行く許可を申請してくれ」

「え?檜佐木副隊……はい」


春からもうずっと、無茶ばかり押し付けている俺に決して多くは問わず、即応する部下に悪いと内心で謝罪して穿界門に向かう。


「っ、…………」


一刻も逸くと気は急くのに、


手が……、足が震える。


情けなくも震える足をぶっ叩こうとした手が震えていた。

もしも……と沸き上がるのは言い知れ無い恐怖で、手放さない、失くさない為の方法なら嫌と言う程考えて来たと言うのに……。



『アンタが恋ねぇ……』

『…………』

『否定はしないのね』

『そう、っすね……』




もしも、此れを恋だと言うのなら……


「だから今更、失くすなんて冗談じゃねぇんだってっ……」


俺は、其れが良いと思った。







*


「…………」


一月ぶりに訪れた部屋で、ベッドに横たわる姿に先ずは無事を確認してほっとする。

然して、


「…………っ」


不意に伸ばした、涙の痕の残る頬に触れようとした手を止めた。


もしも……


と思えば怖かった。

記憶が消えただけなら問題無い。けれど、もしも記憶と一緒に霊力も失くして居たなら……、姿処か触れる事も叶わない。

其の、意味するところは……


「…………っ」






「………、也…」



「…………紗也」



触れる事も出来ずに、ただ呼び掛けるだけの声に反応は無い。



「紗也……」



けれどどうかと、



「、紗也っ!」


「――…、……っ」


「紗っ……」



頼むからと荒がった声に呼応して、ドン と上がった霊圧に見開いた、俺を映した瞳が……



「っ……、苛、つく……っ」



今が不本意であると如実に伝えていた。





prev / next


[ back ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -