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「阿近さんっ!」
「………珍しく騒々しいな」
「っ、ふざけっ……それ、より!アイツ……、は!?」
「…………」
此処に居るはずだ。なのに姿処か気配も感じ取れない。
此の目の前の鬼の落ち着きはらった様子に躯中が騒つく。
「阿近さ……」
「四宮紗也なら、丁度現世に帰した所だ」
「…………は?」
何、で……と、回らねぇ頭に、「処置が済んだからな」と冷然と畳み込まれて何かが込み上げる。
……処、置って、
「正か……」
「データは揃ったしな」
「っ……」
血の気が、退く……
「監視は終いだ。後の保護は黒崎にでも任せりゃ良いだろう」
今、直ぐに駆け出して行きたいという衝動を、ギリ と歯噛みして堪える。胃の奥底から沸き上がる恐怖にも似た感情に、足が震えた。
「つーか、元々副隊長が関わるような案件じゃねぇだろ」
今までも此れからも。
そう云わんばかりの呆れを含ませた言葉は、きっと何一つ間違っちゃ居ねぇんだろう。
けれど、其れでもと、
「………邪魔、しました」
其の言葉と共に駆け出した俺を引き留める声は無かった。
任務……、なんて只の口実で、アイツに会いに行く機会を増やす為に無理矢理奪い取ったもので、只の職権乱用だ。
「ヤベぇ、吐く……っ、」
『アンタ、此れ以上仕事増やしてどうすんのよ……』
只でさえ忙しいくせにと呆れてくれたのは乱菊さんだったか……。
「其れでも……」
欲しいものが有った。
譬、何を犠牲にしてでも――…
「今更、手放すかよっ……」
俺はただ……
アイツが欲しかった。
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