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「阿近さん」
「もう良いのか」
「……はい」
見付けた答は、私が欲しかった答ではなかったけれど、
「十分、です」
そんな都合の良いモノなんて、きっと最初から何処にも存在なんかしていない。だから、
「ありがとうございました。阿近さん」
私がここに来た意味をくれて……。
頭を下げた私に、阿近さんは難しい顔で「そうか」とだけ短く応えた。
私は、どうしてあの人は私に構うんだろうと、ずっと不思議に思っていた。そうしてそう思いながらも、勘違いも甚だしい。あの人の優しさに莫迦な期待も沢山して来た。
本当、笑える。考えなくても答なんて決まっていたのに。ただ私が別の答が欲しいと目を逸らしていただけ。只の悪足掻きだ。
『戻るぞ……』
どれだけあの場に立ち尽くして居たんだろうか。
照り付ける太陽の下、名前を呼ばれて意識を引き戻されるまで、私はあの人の姿が見えなくなった方向をただ見詰めていた。
『檜佐木さん……』その声は、届くはずも無いと分かっていたのに……。
「……気持ちは変わらねぇか」
「はい」
そう、自信を持って言えるにはまだまだ覚悟は足りて居ないけれど、後悔だけはしないと決めてここに来た。
「…………」
「阿近……さん?」
上手く笑えた自信も無い。だからかな……。私の髪をくしゃりと撫でた阿近さんが、
「まあ、約束、だからな……」
と、憮然とした顔で了承をくれた。
「……準備は良いか」
「はい」
「次に目覚めた時には現世に居る」
「はい」
「それでも、此処の痛みは消えねぇぞ」
「っ……」
強く、強く思うのは、
「……はい」
こんな今になっても、あの人の事だけだ。
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