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   42


ゼッ と息が切れるのも構わずに走り続けた。

滲む視界が鬱陶しくて、腕で乱暴に拭う。

震える手で書類を戻して、後は一秒でも早くと副官室を飛び出していた。あの人を強く感じるあの場所から、少しでも遠くへと逃れたかった。ここにいちゃダメだと、その一心だった。

あんなに欲しかった答を得ながら、こうしてまだ傷付く自分に呆れる。

でも私は……、また泣いて責める為にあの場所に行った訳じゃないんだ……。

ヒッと洩れそうになる嗚咽を噛み殺して細い路地へと身を隠す。壁に凭れるように躯を預けて、ズルズルとその場にしゃがみ込んだ。





私は、答が欲しかった。


でも本当は、もうとっくにそれを分かって居たんじゃないかと思う。

好きだとも云わせて貰えない私は、あの人と同じ世界に立ってさえ居ないと。

あの人にとって、私は只の……



『全部見て、知って、それで……。先輩を分かってやってくれねぇか……』



「違、う……」


ちゃんと分かってる。

副隊長さんで。あんなに忙しい人が私なんかの為に時間を割いて来てくれていた意味を。


「知ってるよ……」


あの人は……

ただ、優しかっただけ……。








――――…


不意に感じたあの人の霊圧に、昼下がりの賑に溢れる大路の先に目を向ければ、あんなにもここでと願ったあの人の姿が在った。


「…………っ」


もっと、ちゃんと。その姿を見たいと思うのに、また歪む視界が邪魔をする。

こうして居たって、あの人がこの世界で私に気付く訳も無い。


「檜佐木、さん……」


ここは振り返れば当たり前にあった、あの小さな世界じゃないんだ。


「檜佐木さん」


遠ざかる後ろ姿に、何度名前を読んでみたって、振り返るはずも無いんだって……


「私は……」



貴方が、好きです――…





「そ、か……」


名前って、こんな時、呼ぶんだ……。





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