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「阿散井さん、まだかな……」
ふー… と一つ溜め息を吐いて、身を沈めるように腰を下ろせば、独りの心細さが身に沁みた。
『感情は揺らすなよ』
お前は霊圧まで揺れるからな……。
『何か遭ったら、呼べ』
そう頭をぽんぽんと撫でてくれた阿近さんの手が無性に恋しい。
「阿散井さんの莫迦……」
連れられたここ、九番隊では、あの人は不在だった。
『後小一時間程で戻られると思います』
どうぞお待ちになって下さいと通された副官室であの人を待つこと数分、突如鳴った緊急を知らせる伝令神機の呼び出しに、『直ぐに戻る』と阿散井さんが飛び出して行った。
「だから直ぐっていつ……」
あれからもう、かれこれ30分は過ぎている。何より、阿散井さんが戻る前にあの人が帰って来たらどうしてくれると、緊張で吐きそうになる胃を押さえた。
「………暑い、し……」
ここ尸魂界も真夏の様相を呈していて、汗に貼り付く死覇装が鬱陶しい。ドクドクと煩い心臓の音がその不快感を増した。
少しだけ窓を開けても良いだろうかと思案して、阿散井さんが人払いをしたここに誰が居る訳でも無く途方にくれた。
私が尸魂界に居る事を知らないあの人の部屋に、許可無く居座って居る事にも罪悪感が募る。
こうしてじっと待つだけの時間は只管長くて、やっぱり外で待たせて貰った方が……と何度も思っては、『絶対にここから動くなよ!』と厳命した阿散井さんの言葉に止まって来たけれど……
「あ……っ」
と思った時には強い風が吹き抜けていた。
だから少しだけ、と窓に手を掛けたのがいけなかったんだろう。力を込めずして容易に開いた窓から進入した風が机上の書類を散らして居た。
慌てて閉めて、一枚一枚舞った書類を丁寧に拾いあげる。
「っ……」
そうして、
「………なんだ。そう、か……」
拾い上げた一枚の書類に妙な納得をして、そうだよねと呟いた。知らず溢れたのは涙だった。
報告書と題された書類に記された、否が応にも目に入ってしまった見知った文字は……
私が望み続けた答だった。
《保護、監視対象 四宮紗也》
報告者 檜佐木修兵
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