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「こうしてると何だかデートみたいですよね!」
と微笑み掛ければ、
「恐ろしい事を言うんじゃねぇ」
と真顔で宣う。
「……本っ当に失礼ですよね」
この、死神と言う奴等は……
と何度思ったか知れない事を改めて思う。
大丈夫だと言ってるのに、一人でふらふらすんのは止めてくれと聞かなくて、
『俺の今後の平穏な日常の為に……』
『……何ですかそれ』
とか何とか。頼むからと最後は懇願されて反論を諦めたのに。
「私だってナンバーズと歩くのは嫌なんです!」
自分だけが嫌なんだと思わないで下さい。
「ナンバーズって何だ!」
「…………」
「ぅおい!無視すんなっ!」
だって、ナンバーズって言ったらナンバーズですよ。
良くは憶えていないけど、いつか見た抱かれたい死神なんとかって、あの見開きに載っていた10人はそう言う事でしょう……。
「阿散井さんは慣れていらっしゃるんでしょうから、気にもならないんでしょうけど」
「何言って……つーか、お前言い方にトゲが無ぇかっ」
さっきからこちらを敵視する女性陣の目が恐い。
もし、あっちの世界で芸能人と歩いていたらこんな感じかと思うくらい……
『その間違った認識を変えに来い』?
「何も間違って無いじゃないですか……」
「頼むっ 俺にももう少し解り易く……」
「これだからモテる人は嫌だ……」
「よし。お前は先ずその直ぐに自己完結すんのを止めやがれ」
*
「ここって……」
「おう」
「時代錯誤の見本市みたいですよね」
「余計なお世話だ」
古い町並みに見慣れない出で立ちの人々。異世界に迷い込んだような感覚に、平衡感覚を失いそうになって頭を振った。
通り抜ける風が髪を優しく揺らして野を渡って行く。その様はどこか懐かしい景色に思えた。
NASA顔負けの機器の並ぶ阿近さんの研究室から足を踏み出して、こっちの世界に来て初めて見た外の景色は、あの人がいる世界だと思っただけで胸が締め付けられるように苦しくなった。
『どっか行きてぇトコは有るか?』
だから、そう訊いてくれた阿散井さんに苦笑って、私が選んだのは間違ってもあの人に会う事の無いだろう場所、なのに……
「阿散井さんっ……」
「………おう」
どうした、と優しく瞳で問われて口籠る。
見えねぇだろ……私は……
「阿散井さん、あの……」
どうしたってあの人が恋しくて、あの人が感じられる場所に行きたいんだなと自嘲した。
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