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「っぶぁっ、かかお前はーーーっっ!!!」
と姿を見せるなり叫び声を上げるのは阿散井さんで、口を開き掛けた瞬間を見て取って、耳を塞いだ私は偉いと思う。
いつもいつも何やらと騒がしい人ではあるけれど、今日は一体何がお気に召さ無かったと言うのか……
「分かんねぇ事が問題なんだっつのっ!」
「…………」
「いいか?お前には危機感ってもんが足りねぇんだよ!いや違ぇな、そもそもが無防備過ぎんだよ!」
何か遇ったらどうすんだ。周りが皆善人だとでも思ってんのか。俺の胃に穴が空いたらどうすんだ。いやその前に俺が殺られたらお前の……って、ガミガミガミガミくどくどくどくど。
吼えられても分からないものは分からないんだから仕方ない。それに、
「阿近さんが出ろ出ろ言うからお散歩に行っただけなのに……」
「阿近さんも何奨めちゃってんすかーっ!!!」
「……本当喧しい犬だな」
『少し散歩にでも出て来い』
此処、尸魂界と言う所に来て、そろそろ両手を超えた頃だろうか。
私の世話にも飽きたんだろうが、阿近さんが何故だか私を外へと出したがった。
『っ、いえ、私は別に……』
阿近さんと居るだけで面白いし十分勉強にもなる。特に出たい用事は無いと首を振るのに、
『行って来い』
『何、で、』
『お前、此処に来てからまともに外に出て無ぇだろ』
健康に悪い。真っ白じゃねぇか、って……
『いやそれ、だから誰のせいですか……』
そうさせた張本人が何を言うかと脱力した。(そして阿近さんには言われたくない)
相変わらず過ぎる阿近さんに、本当に死神って……と何度思ったか知れない事を思う。
『でも私は、』
『何も見えねぇだろ』
『っ……』
それは……
阿近さんの口数は多くはない。けれど、だからこそ、放たれる言葉にちゃんと意味が有るんだと知っている……。
何も見えねぇだろ……ここに居たってと、私の欲しい物は何も得られないだろうと、惑う想いを言い当てられた気がした。
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