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もう少しって、後、どのくらい……?






「尸魂界にも鯛焼きって有るんですねー」

「………………」


物言いたげな阿散井さんの視線には気付かない振りで、ねだって買って来て貰った鯛焼きを頬張る。

あんな風に取り乱してしまった私に、きっと問い質したい事は山のように有るだろう、けど。

基本的に優し過ぎる阿散井さんがそう出来る訳も無く。それにもう少しだけ、と甘えさせて貰う事を選んだ。


後少し……。


まだそう遠く無いあの春の日を準えば、何をどうしたって今へと辿り着いて私を苛むけれど……。

私だって、あの人が望まないカタチを望みたい訳じゃないんだ。



『……ご、めんなさい……っ』

『悪、い、』

『…………』

『いやっ 違う、あのなっ』


あの日……。

だったら、と、思ってしまった自分の醜さに涙が溢れた。突然泣き出した私に慌てたあの人が何かを言い掛けるのには、首を振って拒んだ。

あの人は、きっと伸ばされた手の意味を知っていた。

私も、そうと分かっていて、それでもと伸ばした想いだった。

分かっていたはずの現実から逃げていたのは私で、理不尽な怒りをぶつける資格も無いって事も……。


止められない涙を申し訳無く思っても、優しいあの人が紡ぐだろう言葉は聞きたくなくて、ごめんなさい、だけを繰り返した。

もう絶対、莫迦な真似はしない。だからもう、私に触れないで欲しい……。


『だからお前、ちょっと待てっ!い………まのは、って何だよっ…………はいっ檜佐木っ』

《ちょっと……っアンタ――……っ》


タイミングが良いのか悪いのか。

鳴り出した伝令神機が、あれ以上の拒絶の言葉を遮ってくれた。

漏れ響いた声は、彼の女性のモノだったのか……


やっぱり私は……

この人が大嫌いだと少し笑えた。



「…………」

「不味かったか?」

「いえ……」


直ぐに戻ると言ったあの人を待つ事をしなかった私は、あの人の姿が消えるのを待って直ぐに家を出た。

あのままあの人を待って居たって何が変わったっていうのか……。

きっと何一つだって変わらない。期待して待った分、私がまた、莫迦みたいに傷付いただけだ。

それだって、あの人のせいでは無いのに……。


「なあ、」

「美味しい、ですよ」

「…………」


やっと、と言うように、何かを口に仕掛けるのを遮れば、解りやすくよってくれた皺に苦笑した。


「今度は何笑ってんだよ」

「え、いえ……」


笑ってしまった私に掛かる少し憮然とした声と顰まった顔にまた笑が溢れた。

だって……。いつもなら。いつもの阿散井さんなら。

あんな風に私が取り乱したりしなければ、もうとっくに私を担ぎ上げて、有無を謂わさずあの人の所に連行しているだろうと……。


「……空は、あっちの世界と変わりませんよね」


この無機質な部屋の窓から覗く切り取られた空は、まるで一枚の絵のようで、


あの人と同じ……


その全貌が見える事は無い。

こうして居たって、何も先へは進めない事も分かっいる。

ただ、変わらない物を眺めているだけでは……。








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