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「阿近さんが……」
「おぅ」
「勉強なら技局で見てやるから問題無ぇだろって言、」
「誰もそんな事は訊いて無ぇ」
「どうしてお前がこんな所に居るんだよっ」
8月に入ってからっつってたよなぁっ?俺が迎えに行くっつー段取りはどうしたっ
等々と、矢継ぎ早に言われたって困る。私だって或意味被害者だ。
「伝令が来たと思ったら内容はアレだしよっ」
思わず地獄蝶握り潰しちまったじゃねぇかって、何を言ったんですか阿近さん……。
そんな阿近さんは、
「適当に元気だっつっといてやりゃあ良いだろ」
どうせアイツには判りゃしねぇんだからよと、何れだけ阿散井さんが喚こうが動じる様子は無い。
「コイツが少し早く此方に来た以外は予定通りじゃねぇか」
と、シレッとした顔で実験を続ける阿近さんに、どう考えても阿散井さんが口で敵う訳が無く。
「事実こうして怪我一のつもしねぇで元気にやってんだろーが」
何の為にお前にだけ教えたと思ってんだって……
「何事にも不測の事態っつーのは付き物だろ」
「……本当、アンタが言うな……」
……本当に。
この人に口で敵うのなら、間違い無く、今ここに私は居ない。
『迎えに来た』
『えっ?……と、迎えに……って確か阿散井さんが来、じゃなくてですねっ 私まだ学校が終わってませんし、8月に予備校が終わってから行きますって言っ……』
『断っておいたから安心しろ』
『…………は?じゃなくて、そんな勝っ』
『金と時間の無駄だ』
勉強なら技局で見てやる。
何の前触れも無く現れたと思ったら、自分の云いたい事だけを言って『行くぞ』と慌てる私の手を引いた。
『で、も……っ』
それでもと、反論しようとする私の目元を指で辿られて、この人はどこまで知っているんだろうかと息を呑んだ。次の瞬間、目の前で何かが弾けた。その強い光だけは覚えている。
その後は目が覚めたらここに居たんだから私だって被害者だ。
物理的、精神的準備も有ったもんじゃない。
『全て対処済みだ』
と言う阿近さんを疑う訳ではないけれど……
「とにかく、この事は先輩に……」
「っ、嫌!あの人には言わないで!」
「っ……」
「…………」
今にもあの人の元へと飛び出して行きそうな阿散井さんを、嫌だと、咄嗟に死覇装の裾を掴んで引き留めてしまって居た。
「お、前……」
ああほら。阿散井さんが驚いている。でも……。
今はまだ会いたくない。
ここに居る事も知られたくない。
もう少し、待って欲しい……。
「そんな慌てなくても問題無ぇだろ」
「つってもっ!」
「アイツには此処から身動き取れねぇくらい仕事を振って有るから大丈夫だ」
「だからあんなに機嫌悪ぃのかよっ!」
……なんて。
そんな阿散井さんが思うような理由なんて無いんだって。私が何をどうしたって、あの人には取るに足らない事なんだって。
いい加減、私にだって分かっている。
ちゃんと、分かってるから……。
だから本当に。
あともう少しだけで、良い……。
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