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この想いが届くと思っていた訳じゃ無い。
けれど――…「阿近さんは……」
「…………」
何やら難しそうな機器を操作する阿近さんに話し掛ければ、いつものように無言が返って来た。
「やっぱり色っぽい女性の方が好きですか」
それに気にせずに言葉を紡げば、
「……お前はそのままで十分だと思うがな」
「私の事じゃ……ない、です」
「そうか?」
今日は何の気が向いたのか、珍しく手にして居た器具を置いて私を捉えた。
阿近さんは……
「ツンデレですよね」
無言でもちゃんと話は聞いてくれている。仕事が終われば、驚く程の記憶力で、私に全ての答えをくれる。
それが何となく嬉しくて笑顔を作れば、ほんの少しだけ細められた瞳が嬉しい。
「今、笑いましたよね」
そう、より一層と微笑んだ私に呆れてか、
「…………っとに」
面白い女だなと、今度こそ相好を崩した。
話し掛けても良い時、悪い時。
その違いが何故だか最初から分かって、阿近さんの傍はこんなにも落ち着、く……
「阿、近さん……?」
「色気の基準は知らねぇが……」
あれ?と思った時には阿近さんを見上げて居た。
動揺する隙も無い。スルリと撫でられた頬を包み込む、意外と無骨な指先が口唇を辿った。
「勃つか勃たねぇかの話なら十分だな」
「っ……」
哭かせてみたくなるって、そんな真顔で答えるのは止めて下さい……。
「今のこの態勢で云われると流石に笑えないんですが……」
いつの間に押し倒されたのか。浅く腰掛けていたはずのソファの上。無駄だろうと思いつつ、少しだけ力を入れてみた躯はやっぱりビクともしなかった。
「あ、のっ……」
「色気が欲しいんじゃねぇのか」
「…………」
そんな一言で抵抗が弛む私は、やっぱりどうしようも無いガキで、
モシモ、アノ人ヲ……一瞬だけ頭を過った、莫迦な想いに嫌悪した。
「しねぇのか……」
抵抗、と口角を上げられて息を吐く。
だって……
「だぁあっからーっ!!!」
ドカーンッという爆音と共に入室して来たのは阿散井さんで、阿近さんが確信犯だとは途中で知れた。
「何やってんスか、アンタはぁあぁあああああっ!!!」
と、怒る阿散井さんの気持ちも解らないでも無い、けれど……
「アレだけ派手に揺らされりゃあ判るか?」
「流石に……」
「だからお前も少し危機感を持てっつってんだろーがっ!!!」
「ホント、耳にも肌にも五月蝿いです」
いつも尸魂界でもこんなに騒がしいんですかと言えば蟀谷を引き攣らせるから、第二波に備えて耳を塞いだ。
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