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   33


何が起こったのかを認識する隙も無い、それはほんの一瞬の出来事で。

体感した事の無いそれは、今日になっても消える事の無い痕を遺して、時折襲う、暗闇でもがくような目眩と不快感が、あれが現実だと教えてくれた。


『なぁ……』


言いながら躯に掛かる手のひらの感触はあの人のモノだったのか。

そっと何かに沈まされた感覚に、何となくと、ここが何処かを悟りながら治まらない目眩に五感がぶれた。


『……しも、……ん……なら……』


意識を保つ事さえ難しい私に、低まった声を拾う事は困難で。


『……が、…………い』


だから待ってと、あともう少しだけ。


『っ………』


今は帰らないで欲しいと、必死にあの人の気配を追うように意識を引き戻した、其所には……


『帰……、ちゃった……』


あの人の姿は無かった。



どうして私は、ああも簡単にあの人を怒らせてしまうのかと泣きたい気持ちにさせられた。

何て言うか、ここまで来たら、怒らせる云々の前に根本的な相性が悪いんじゃないかと……


「やっぱり良……」

「良くないでしょ」

「っ……」

「良くないからそんな顔をしてるんじゃないの」


そう眉根を寄せる悪友が、アンタは云いたい事を言わな過ぎだと苦い顔で言いつのって来る。


「私は……」

「その人と、一緒に居たいんでしょ……」


何とかしてでも……って……


「うん……」


私は、


「その人が好きなんでしょう?」

「っ……、うん……」



あの人に――…









「彼女に負けんな」

「それは無理」

「絶対、アンタの方が可愛いのに……」

「それも、無い」


何でよって怒る悪友に、身の程は解っていると苦笑する。


「ねぇ……」

「……ん?」

「好きだって、云ってみなよ。それくらい……」

「良い、のかな……」


本当に、そんな事が許されるんだろうか……


「良いんだよっ」



『お前らは………』



「彼女が居たってねぇ、そんな事も受け止められないような男にアンタはやらん!」


叫ぶように背中を押してくれる友人の声に、呆れ顔を思いっきり顰めた、紅い彼の声が重なって聴こえた。






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