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「大丈夫って言ってるのに……」

「アンタの大丈夫ほど宛てにならねぇモノは無ぇ」

「……失礼な」



結局、息が切れる程に走らされ、連れられたそこは黒崎君の家で。


『大丈、夫だからっ』

『煩ぇよ』


迷惑だからと、帰ると出て行こうとする私をまた不機嫌顔で捕まえて。床が濡れるのも構わずに中へと上げられた後は、無言で押し付けられたタオルと共に脱衣室へと押し込まれてしまった。


『文句は聞かねぇ……』


紅く染まった、憮然とした顔は逸らしたまま。


『大きいって……』


渡された着替えからは、あの人とは違う、匂いがした。



「何だよ……」

「いやえっと、うん……」


現在、一頻りの迷惑を掛けた上で、更にと雨が小降りになったところを送られている訳で。

私の少し先を歩く黒崎君は、じーっと見詰めてしまった私の視線に文句は言うものの、なかなか合わせてくれようとはしない視線に首が傾がる。


けど、まぁ良いか……。


余計な事は詮索したりはしない、黒崎君のこういうところには救われると思った。


それに……。


送らせてしまっている黒崎君には申し訳無いけれど、家には帰りたくは無かったし、こうして出来た理由に、これであの人からも文句を言われる事も無いだろうと息を吐く。


もう居ない、かも知れないし……。


もしかしたら、今日は来てさえ居ないかも知れない。


「っ……」

「どうかしたか?」

「ううん」


会いたくなくて逃げておきながら、会えないと思うだけで痛む胸に歯噛みする。

昨日から、私は……


「何でも無、っ…………」

「あ、……」


突然……。ザンッ と目の前に降り立った闇色の影に、息が止まるかと思った。だけど、私はその正体を知っていた。


何……、と問う事に意味なんて無い。


「………………」


ヒュッと息を吸い込んで、ゆっくり、ゆっくりと焦点を合わせた先。


「っ………」


乱れた呼気を抑え付けるようにして睨み上げる、


今、一番……


会いたくて、会いたくなかった人の強い視線が在った……。






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