29
バシャバシャと音を立てて雨の中をひた走った。
「本当、ついてない……」
下校を告げる鐘の音を、どこかぼんやりとした思いで聴いた。あれから、もうこんなにも時間が過ぎていた事に気付けなかった。その理由に歯噛みした。
家に帰りたく無かった。
昨日の今日だからこそ、きっとあの人は来てくれる。
そう思ったら、とても直ぐに家に帰る気にはなれなくて、躯が上手く動かなくなってしまった。
会いたくないと、そう思ってしまった……。
そのまま思考の渦に陥ちてしまっていたらしい私は、どんよりとした陰が辺りに落ちるまで、分厚く空を覆った曇に気付けなかったらしい。
ヤバい…… と思った時にはもう遅い。降り出した雨はあっと言う間に本降りに変わっていた。
「もう、嫌だ……っ」
濡れて貼り付く髪が鬱陶しい。何の役にも立っていない薄手の制服が、躯に纏わり着いては急ぐ私の邪魔をする。
「早く……」
帰らなきゃと、あんなに帰るのを躊躇った家へと急ぐのは、いつもならまだ明るいはずのこの時間が、この黒い雨雲のせいで灰色に埋もれてしまっているから。
また……
「、キャアッ!!!」
余計な心配を掛けてしまう、そんな言葉が頭に過った瞬間、掴まれた肩に躯がビクリと反応して悲鳴が上がった。
「っ……」
「悪ぃっ、けど、こんな時間まで何やって……っ」
声を失う程に驚く私に、悪ぃと謝りつつも不機嫌さを表情に浮かべる。
「また何か遇ったらどう、すっ………………」
「黒崎、君……?」
「っ……、いやっ だからっ……だなっ」
そうして、恐らくは口にしようとしてくれていた心配の言葉を詰まらせて、真っ赤な顔で眉間の皺を深くする。
「アンタ、本当……」
「何……っちょ、わっ」
呆れたように吐き出して、埃臭いジャージを被せて来ては……
あの人の怒りたく気持ちが解る、
そう言った。
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