28
「お前、何か俺に隠してる事無ぇか……って、有るんだな」
「私まだ何も言ってないですよねぇええええっ!!!」
何気なく過ごしていた土曜の午後の昼下がり。
いつもより少しだけ早目に顔を出してくれたこの人と、最近 流石に見慣れた襖が開いた瞬間目が合った、途端のこの台詞……。
流石、副隊長? いやそれ関係有るのかな。
『隠し事』の言葉に、また一瞬だけ反応してしまった自分が恨めしい……。
その目力が怖いんですけど……って言うか、
「その凶悪な目付きは何とかならないんですか……」
「誤魔化そうとしても無駄だからな」
「えっ?いやあのっ……」
そんなつもりはこれっぽっちも無いですからっ!
ただ、ジ――… と逸らされない瞳が居心地が悪いだけ。なんだけど、そんな言い訳が通じそうに無い事だけは判るから嫌だ。
『それ、あの人に絶対に言わねぇ方が良いぞ?』
元々、後ろめたい事なんてこれっぽっちも無かったのに、そんな事を黒崎君が真顔で言うから……。
『先輩には絶対に言うなよ』
『この前の事ですか?』
『違っ!!!……いません。すんません、あれも極秘でお願いします』
『何で急に敬語になるんですかっ……』
阿近さん絡みは不味ぃんだよっ!
そう言って、アレもバレたらマジでヤバいと蒼褪めては、『逆鱗に触れんのは間違いねぇから、そこだけは内密に頼む』と阿散井さんが必死になって口止めなんかして来るから……。
こっちに帰る前に、ほんのちょっとで良いからあっちの世界で会ってみたいなとか思っていたのに……。
会ったら絶対嘘は付けない。
私があの人を上手く誤魔化せる訳も無いだろう。
だったらと、最初から最後まで内緒で行くと決めた尸魂界行きの事だろうかとか。
友達に頼んじゃったキャンセル不可能そうな合コン話とか阿散井さんにまた闖入されて見られちゃった話とか黒崎君に早目に何とかしてくれと懇願された付き合ってる話だろうかとか色々色々……。
何れの事?なんて頭を過ったのが不味かった……。
「…………で?」
「でって……いえ、ですからねっ」
既に、何れが一番被害が少ないだろうかと考え出している自分が悲しい。
身に覚えは有り過ぎるけれど、そもそもこの人に話さなきゃならないような……っ、
「ちょっ、あのっ……」
「早く云えよ?」
「待っ………っ、………………」
お願い、だから……っ
「…………、無駄にセクハラするのは止めて下さいって、何回言った、らっ……」
やっと許された息を吸い込んで、ハッと掠れる声で苦情を告げる。
何か最近、頻度と程度が増してませんかっ
「だからセクハラ言うんじゃねぇ、」
「じゃあ、パワハラで」
「手前ぇ……」
だんだん悪くなってんじゃねぇかって知りませんっ
「だったらしなきゃ良いじゃないで……」
「嫌なのかよ」
「………っ、私、は、」
「俺にキスされんのは、嫌かよ」
「……………」
嫌、なんだろうか。
私は本気で、嫌だと思って口にしていたんだろうかと思ったら……。
「私、は…………」
自分の醜さに、泣きたくなった。
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