03
ちょっと、離して、と出来るだけ小声で、苦しい抵抗を試みる。そんな私なんて物の数では無いようで。
「離したら逃げんだろ」
と涼しい顔で、お構い無しに引き摺ってくれる。
当たり前だと思っても、思いの外 強い力で握られた手は振り解く事は叶わず。
それこそ私が怪しいヤツに観られるのは御免だと、小走りでソイツの横に並び続けた。
このまま抵抗を続けようものなら、傍目には手を前に突き出して引き摺られる、ただの変な女なのは間違い無い。それは嫌だ。
やっと諦めて大人しくなった私に満足したのか、其処で漸く歩調を緩める辺り、色々な事に慣れていらっしゃるらしいと半目にもなる。
「何だよ」
「いえ別に」
その無駄に整った見てくれが在れば、人生楽しく過ごせそうだと思っただけですと内心で毒吐いた。
「とりあえず解ったから、手を離して」
「何で?」
「は?」
いやいや。
何でも何も、そう言う話だっただろうっ
「ちゃんと付いて行くから、もうそれで良いでしょ?」
アンタと手を繋ぐ意味が無いと憮然として言えば、一瞬驚いた顔をしてソイツが足を止めた。
じっと覗き込まれるのが居心地が悪い。
その、何処か嬉しそうにも見える表情の理由が解らない。
「どうかし……」
「莫迦だろ、お前」
「…………は?」
「同じ歩くんでも、女の子と手を繋いでた方が楽しいに決まってんだろ」
一応でも……って、ふざけんな!
気にした私が莫迦だった。
……この、人の。
思考回路が全く以て解らない、けど一つだけ。
「莫迦はアンタだ」
「アンタじゃねぇよ、先も名乗ったろ」
「忘れた」
「手前ぇ……」
……用を済ませたらもう二度と、絶対にコイツには関わらないと誓った。
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