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「お前の提示した条件は全て呑むって事で良いか」
「…………」
「どうした?」
「っ、いえ……」
何か有ったら言えと促されて、開き掛けた口を閉ざした。
一先ず私の興味も落ち着いたところで切り出された話、阿近さんが呑むと言ってくれた私の条件は多くはない。
一応 受験生だし、一週間以内にはこっちの世界に帰りたいとか。あの人には気付かれないように、少しだけあの人の日常を見てみたいとか。
そんな大した事のないレベルの話だ。
「………その話の為だけに来て下さったんですか?」
「九分九厘、興味本位だがな」
そう言いながらも始めに観察するような目で一瞥された以降は、時折、不躾過ぎない視線が向けられるだけ。
「何の興味か解りませんけど好きにして下さい。でも、大して面白いモノでは無いですよ」
「……阿散井、コイツ貰って良いか?」
「駄目っす!っつーか、お前も色々と気にしろよっ!!!」
俺の胃に穴を開ける気かと、一人芝居のように面白い阿散井さんはもう放置しよう。
何と言うか、希望を聞く前に全てを許容出来るって……。
そのスマート過ぎる対応に大人の余裕を感じると言うか、涼やかな眼差しがもう……
「格好良過ぎる……」
「お前はどこまで俺の胃を痛め付けんだコラ」
「阿散井さんはさっきから五月蝿いです」
「誰のせいだよ……」
「兎に角だ」
「ちょっ、阿近さんまでっ」
「約束は守るし、痛い思いも恐い思いもさせねぇ。身の安全は保証する。それから、」
「はい?」
「何かして欲しい事が有るなら云え。三つまでは叶えてやる」
ズッ と片手で持ったカップを口にしながら、考えておけと何でもない事のように言う。
「何でも良いぞ……まぁ其れも、とにかく先ずはあっちに来てからだな」
「…………」
「どうした」
「……いえ、何か魔法使いみたいだなって……」
ああ、何か。私はこの人の雰囲気が嫌いじゃない。
悠然とした微笑みも、その少し冷然と感じる話し方にさえ表情を綻ばせれば、
「っとに……」
面白ぇ女だなと、呆れたように、でも少しだけ優しくなった表情で笑ってくれた。
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