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「さて、と……。これで30分は戻って来ねぇな」
「大丈夫、なんですか?」
窓から飛び出して行った阿散井さんを一瞥する事もなく、何食わぬ顔でお茶を啜る阿近さんに、焦った様子や何かしらの行動を起こす様子は無い。
「何がだ?」
「え?いえ、虚って化物?が……」
出たんですよねと、大丈夫なのかと焦る私を訝し気な視線が捉える。
私には分からないだけで、阿散井さん一人でも問題無いのかも知れないけれど、
『デケぇな……』
ちょっと行って片付けて来ますと、面倒臭ぇと舌打ちした阿散井さんが直ぐに駆けて行ったけれど……。
「もしかしたらっ……」
「ああ、アレは俺が造った実験体だから全く問題無ぇぞ」
「えっ……?」
実験……体?
「何、で……」
「五月蝿ぇしな。お前が何か話したそうだったから体よく追っ払ってみただけだ」
「………………」
逆に問題大有りじゃあ……
今頃追っ掛けっこでもしてんだろとシレッと言われて、あの人も大概だと思っていたけれど、この人もその上を行くと真剣に思った。
「何だ、聞かれたく無ぇ話が有ったんじゃねぇのか」
「っ……」
飾る事なく確信を突く物言いは、問い掛けの形を取って居ながらそうでは無い。
あんな、たった少しの逡巡でと、全てを見透かした視線に言い淀んだ。
「俺は……、お前は断って来ると踏んでたんだがな」
「っ……………、はい」
私の想いを言い当てて、じっと見据える瞳は強くて深い。
「私、は………」
確かにこの人に訊いてみたい事が有った。
『尸魂界には行きません』と、次に阿散井さんに会えたらそう伝えるつもりでいた。
なのに、
『行きます』
口をついて出たのは、全くの逆の言葉で……
「あの、」
「…………」
「お願いと、お訊きしたい事が、有ります」
「ああ……」
行きたくなんかなかった。
行くつもりもなかった私が、その言葉に頷いた理由はたった一つだ。
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