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  心響


『もしも恋人が浮気をしたら、アナタはどうしますか』



「っ……」

「何 反応してやがる」

「っ、ちょっ……………急に、何するんですかっ……」





観るとは無しに眺めていた、テレビの向こうから聴こえた音声に飲んでいたお茶を吹き出し掛けた。

道行く男女にマイクを向けた、リポーターの口から飛び出した質問に思わず反応した、のが不味かったのかも知れないけどっ……


「だからって何で私はこんな体勢で拘束されてるんですかね……」


グイッと躯を引き寄せられた瞬間 目が回った。
広くは無いソファの上、縫い留められるように押さえ付けられて、不機嫌な顔に見下ろされている。


「お前が『浮気』って言葉に反応するからだろ」

「いや、反応しただけ……って言うか、」


何か疚しい事でも有るのかと募られても困る。
一体何でこの人がそんなに怒るのか……。


「そうだとしても、私が浮気したって……」

「したら相手を殺るぞ手前ぇ……」

「そこは彼女を怒りましょうよっ!って言うかホント怖いですからっ!」


目付きも怖いし顔も怖い!
一瞬で全身から立ち上った殺気が死ぬ程怖いんですがっ!!!


急降下したらしい、相変わらず読めないこの人の不機嫌スイッチはどこに在るのか……。



『因みに阿散井さんて彼女は何人いらっしゃるんですか?』

『ぶふぉあっ!!!』

『ちょっ、阿散井さん!汚っ!!!』


尸魂界行きの話が出てから、ちょくちょく顔を出してくれている阿散井さんに、あの人がダメならこの人だと訊ねてみただけなのに。

何してるんですかと拭いてあげれば誰のせいだと怒られる。


『いる訳、無ぇだろ!』

『彼女いないんですか?』

『悪かったなぁっ!つーかっ いたとしてもそう何人もいてたまるかっ!!!』

『‘今’は?』

『だから違ぇよっ!』


お前なぁ……、と呆れられたって。


キスが挨拶じゃないなら何なんだ。


私の躯中を支配する思考は、未だ往生際悪く答を追い続けている。


『………一夫多妻制じゃないんですか』

『お前はホント、その誤った認識を改めに来い!』


また一つ消えた選択に。

だったら……、と思っただけだ。


「彼女は、浮気とかあまり気にしないんです……」

「お前は平気なのかよ」

「だから訊いてるのは私……って、私っ!?」


って、何で私………


早く答えろって本当、唯我独尊って言葉はこの人の為に在るかのようだ。


「私、は……」


どうなんだろうか。


突然話を振られたって、そんな浮気をされて困るような相手もいなければ、いた事もない。何せ彼氏いない歴を絶賛更新中だ。

けど……


「……平気、じゃないと思います」


本当、あんな事をしておいてどの口がと胸がズキズキするけれど……。

私だったら無理だ。


「浮気をするくらいなら、私と別れてからにして欲しい、です」


だって、こんな思うだけで胸が痛い。


「もしも、浮気されたら……別れ、ます」

「……それは、あんま好きじゃねぇって事か?」

「違……う、」


それはただ、私の事を本当に好きでは無いからなんだと思うから。
私はきっと、何が遇っても嫌いにはなれない。


別れて、後悔して、赦せない自分を責めても。


「私以外の人に触れるのは、厭だ……」


他の人に触れた手で触らないで欲しい。
私だけを見て、欲しい……


「……けど、初めてだから、よく……分かりません」


それでも好きだと泣くんだろうか。

それとも、赦せない自分を責めて、私だけが好きだったんだと泣くんだろうか……。


「何泣きそうになってんだよ……」

「っ……」


こんな、想像どころか、例え話にもならない事で泣くなんて莫迦げてる……。そう思うのに、色々な事が初めてで、私にはこの感情の全てが難しい。


緩んでいた拘束から脱けて、今度は私からこの人を引き寄せるように抱き着いた。

途端、息が止まる程に抱き締めてくれる腕の強さが、どうしようもなく嬉しくて切なくて、胸が震えた。



好きです。
ごめんなさい。

好きです……。



ぐちゃぐちゃなこの想いが、いつか消えて無くなるまで……

どうかもう少しだけと、願う。



「……ねぇよ」

「え……?」

「お前以外には……って、何でもねぇよ」

「痛いっ!何で其処で叩くんですかっ」


ちゃんと聞いとけよってムッとされても……、耳に響く声は、この人の胸を伝わって鼓膜を震わせるだけ……。


とっくに泣き止んでいる私を甘やかす腕は、いつまでも放される事なく包み込んだまま。

一体この人は何処まで優しいのかと苦笑が洩れた。


「もう一回ちゃんと言って……」

「お前もするなよ?」

「え……?」


何、を……って、ああ、


「……しません、よ」


もしもこの人の傍に居られるのなら、私は他の誰をも見ないだろう。


「あんまり、会えなくてもか……?」

「会えなく、ても……しません」


片想いでも、こんなにこの人が恋しいんだからなぁと自嘲する。

待てと言われたら百年くらい待てそうな気がするし、好きだと云われたら、それこそ全てを許してしまうのかも知れない。


「絶対、大事にするんです……」


だって初恋なんだから。


誰かを初めて好きだと思った。
この人の傍にいたいと思った。


だから、もしもこの恋が叶うなら……


「待てと言われたら、きっと莫迦みたいに待ってるし……。絶対に、自分から手を放したりしません」


だけどそれは、結局は仮定論でしかなくて。


この人は私のモノじゃない……。


そんな日は来ないんだって、分かっているけど……。





「別に莫迦にしてくれて良いですよ」


自分の事はもう、良く解っている。

いつもならこの辺で、莫迦だのガキだの世間知らずだの言いたい放題のこの人が、何も言わないのも変に落ち着かなくてそう言った、のに……


「莫迦になんてしねぇよ阿呆……つーか、待つのは俺だしな」

「何ですかそれ、っ……」



まだ、解らなくて良い。



優しく、本当に優しく小突かれて……



何でだろう。



ただ、泣きたくなった――…







その言葉の意味なんて、ほんの少しだって解らなかったけど……。









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