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「ですからね、って、聞いてます?」
「ああ」
「本当ですかっ だからあれはそう言う意味じゃないですから……って、もうっ」
絶対、聞いてませんよねぇっ!?
『今夜、行く』あの言葉通り会いに来てくれたこの人は、恥ずかしくてどうして良いか分からない私なんて最初からお見通しで、逃げ出す隙も与えてくれずに簡単に腕に収めてくれた。
子供みたいな文句を云わせてくれる。解ってると言いながら、そのどこか弛み切った顔が嘘だと言っている。
もう、とムクれてみたって、それさえも嬉しそうに優しく微笑まれたりするものだから堪ったものじゃない。
そんな瞳で見詰められてしまったら……、私がこれ以上文句を云える訳もない。
「怒って、ないんですか……」
「何で怒らねぇとならねぇんだよ」
「だって……」
彼女でも無いのに独占欲紛いの事を口にするなんて、穴が有ったら本気で埋まりたいけれど、そんなのウザいとか思わないんだろうか。
「無関心の方が傷付くだろ」
「……彼女でも、無くても?」
「は?いや、それは知らねぇけど。それより、」
他の野郎を褒めるとか有り得ねぇだろお前は……って、悪態を吐いては私を楽にする為の言葉をくれる。
「貴方はよく他の女性を褒めちぎりますけどね」
「っ…、れは」
「冗談です。それは……当たり前、だし」
……事実なんだから。
それに、彼女を褒める男っていうのも格好良いと思うと内心で苦笑した。
「…………そこは気にしろよ」
「そして何でまた不機嫌になってるんですかっ……」
怒ったり拗ねたり喜んだり……
『良いか?お前が相手にしてんのは、お前の事になると途端に面倒臭くなるヘタレ野郎なんだよっ!』阿散井さんはそう言うけれど……。
そんなのは、嘘だ……。
そんな人、私は知らない。
私の知ってるこの人は、意地悪で口が悪くて子供みたいで、ちょっとした事で直ぐ怒る。
でも本当は優し過ぎるくらいに優しくて、子供でしかない私に合わせてくれている大人の人だ。
格好良過ぎて困るくらい。
絶対に手の届かない遠い人なんだ……。
『だったらよ……』やっぱり一度、尸魂界に来てみねぇかと阿散井さんは言った……。
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