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「お前、先輩に何かしたか?」
「…………どっちかと言えば、したのはあの人の方ですが」
「機嫌悪ぃなおい」
二人揃って……と顔を引き攣らせるのは阿散井さんで、先輩、所謂あの人の不機嫌マックスな理由を態々問いに来たらしい。
暇人か。
「何でか知らねぇけどよ、俺に対する霊圧も刺々しいんだよっ!」
と云われるあの人が、尸魂界でも機嫌を損ねたまま、不穏な霊圧を垂れ流して居るらしい。
昨夜、現世から戻ってからずっとだと言うそれは、確かにアレを引き摺った物には違いない、かも知れないけれど……
「あの人の不機嫌な理由なんて、私が知りたいくらいです」
どうしてあの人は、ああ理不尽な怒りをセクハラに変えるかな、と文句を言いたいのは私だ。
「瀞霊廷通信?っていう本を一緒に見てたら急に不機嫌になったんで……」
それだけかって、喚く阿散井さんには申し訳無いけれど、本当にそれだけだ。
『貴女が選ぶ、抱かれたい男性死神ベスト10……?』
二人で、ただ瀞霊廷通信を読んでいた。
『………興味有るのかよ』
少しだけ低まった声。
だけど、
『いえ、尸魂界もやる事はこっちと大差無いんだなと思っただけです』
何となくだ。何となく目に付いただけで、上位に列なったあの人の名前にモヤッとした訳では決して無い。
そうだろうなとは思っていたから。
だってこの人は、
『本当に、格好良い……』
からなぁと、繰った次のページに載っていた10人の写真の中にあの人を見付けて、無意識に本音が溢れてしまっただけだ。
だから、
『………どいつ?』
『え?』
問いを掛けられた事に驚いた。
『格好良いって、誰だよ』
と詰め寄られても、
他の人なんて目に入って無かったし……っ
それは貴方の事です、なんて云えられる訳も無い。
だから適当に、
「写ってた人の中に髪を下ろした阿散井さんを見付けて、格好良いって指差しただけなんですけど……」
「………………」
慌てて目をやった写真の中に見知った顔を見付けてほっとしたのも束の間、指差した途端に冷えた気温に首を傾げた。
本当にあの人の怒りのスイッチはよく判らない。
「それはそうと、阿散井さんて髪を下ろすと雰囲気が凄く変わりますよね。いつも以上に格好良くて吃驚しまし……阿散井さん?」
「お前………」
「はい?」
*
「嫌です!」
「良いから掛けろっ」
「何で私が」
「お前が悪い!」
相変わらずの阿散井さんとの不毛なやり取りを繰り返す。
『原因が判った。お前が悪い。さっさと連絡して先輩の機嫌を何とかしろ』
『人のせいにしないで下さい!』
急に何に思い至ったのか、ピクピクと顔を引き攣らせて伝令神機を押し付けて来る阿散井さんにムッとして返した。
「何で私なんですかっ」
どうしてこう、死神って言う人達は……って二人しか知らないけどっ
「良いから、さっさと先輩の機嫌を直しやがれっ」
自分の我を通そうとするのかなっ
「だから嫌で……」
「お前が本当の事を言ってりゃ、こんな面倒臭ぇ事にはなってねぇんだよっ」
って云われても困る。
「何か嫌だったとか、貴方が一番格好良いとか、本人目の前にして言える訳が無いじゃないですかっ」
そんな恥ずかしいヤツがどこに居るっ
只でさえ可愛くないだのガキくさいだの莫迦にされている相手に……
「他の人に見られるのも嫌だったなんて言ったら、」
『お前、ホント莫迦だろ……』
「今度は何て言って莫迦にされ…………、え?」
って、何……?
何であの人の声がと思ったら、阿散井さんがツラッとした顔で伝令神機を見せ付ける。
また、ヤられた……
と思っても、もう色んな事が遅過ぎて言葉も出ない。
『そう言う事は、直ぐ……言え。それから……』
「っ……」
今夜 行くって、切れた通話に顔も胸も、頭の芯までが熱くなる。
「阿散井、さん……」
アナタ、いつもいつも本当に何て事をしてくれるんですか。
「ふ―…、やれやれ」じゃないですっ
この間っからもう……っ
「恥ずかしくて死んだら責任取っ……」
「死んだら先輩がまた喜ぶだけだぞ?」
「…………は?」
もう、そうしてくれた方が助かるって……
「だから真顔で冗談言うの止めて下さい」
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