17
『診察したら、見えんだろうがっ……』
この、今の私を悩ませている最大の原因である死神は、下がりかけた私の熱をまた上げてくれた。
この人は、私をどうしたいんだろうかと心底思う。
『横になれ』と倒されたベッドの上で、つい恨みがましく見詰めてしまったのも致し方ない。
やっと離された掌。
でも、まるで痕を残したように熱が消えてくれない――…
この人は……、何でああ爆弾ばっかり落とすかなと思っても、口を開く事も叶わない。
こんな貧相な躯を見られたのかと思えば死にたくもなるのに……
いつものような、からかいや冷やかしを一切含まない真剣な瞳に、今回ばかりは文句の一つも云えなかった。
「じゃあ、戻るな」
「あ…………っ」
絶対、数日は大人しく寝とけと強制終了された会話の後(勿論、私にイエス以外の返事は許されていない)。
義骸と言うモノを脱いだあの人の『戻る』と言う単語に反応してしまった。
「ご、めんなさい」
思わず掴んでしまった上衣の裾を、結局放せないまま謝った。
「あの……。後5分で良いからまだ帰らないで………何ですか?」
「お前……」と呟いた後、ふい と逸らされた視線が気になった。背けた顔の、口元を押さえたこの人の顔が紅くて……
「顔、紅いですよ。もしかして移っちゃいました?」
「………いや、大丈夫だ。それより、」
どうせ掴むなら本人にしろよ……
「っ……」
面白くなさそうに着衣から放された手を躯に回される。そのまま包み込むように抱き締められて目眩がした。
本当に、この人は私をどうしたいんだろう……
跳ね上がった心拍数がドクドクと心臓を酷使する。
重ねられた口唇は触れるだけで、決して深いものにはならないのに、
いつか私は、この人に殺される……
そんな事を真剣に思った。
「寝るまで居てやるから……」
安心して寝ろ。
その言葉に誘われるように瞳を閉じた。
「じゃあ、ずっと寝ません……」
「っ……」
ほんの少し、いつもより正直なこの口は、優しい、この人の体温が心地好くて甘えたくなっただけ……。
「っお、前……、クソ」
治ったら覚えとけよっ……
なんて、そんな物騒な言葉は、聞かなかった事にしようと夢に沈んだ。
大丈夫。
この熱が覚める時には、私はちゃんと忘れているから……。prev /
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