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   16


結局、私は不調にも気付けないまま学校に行ってしまったようで、昼を待たずして友人らによって早退させられて居た事を思い出した。


何れだけ朦朧としてたんだか……


『アンタの彼女がヤバいんだって!』


とか何とか、無理矢理友人らに引っ張って来られた、『彼女』の言葉に引き攣る黒崎君も見物だった……気がする。


『頼むから訂正しといてくれっ!』

『……失礼な』

『そう言う意味じゃ……って、ああもう、今は突っ込むのも面倒臭ぇえええっ!!!』


とにかく送ると言ってくれた、また迷惑を掛けてしまった黒崎君を一人で大丈夫だからと説き伏せて、呼んで貰ったタクシーに乗って家に戻った。

玄関に入った以降の記憶は……、無い。


『黒崎から連絡が入ったんだよっ 慌てて来てみれば鍵は掛かってねぇわ、玄関で倒れてやがるわ、熱は凄ぇわ!朝飯を食った形跡も無ければ冷蔵庫だって空じゃねぇか!』


義骸?と言うモノを持って来て良かったと、買物やら何やらを全て済ませてくれたらしいこの人が、そんな姿で居るのはその為らしい。


『直ぐに気付いてやれる場所には、居てやれねぇんだよ……』


だから無理はするなと言ったこの人の方が、何だか辛そうに見えた……。






「食い終わったか?……って何だよ」

「いえ……」


この人は、料理まで出来るとか何れだけスペックが高いのかと呆れただけだ。


「良い嫁になれますね」

「いつでも嫁いでやるぞ」

「………いえ、私は普通に嫁に出たいんで」

「…………」

「何でそこでまた不機嫌に……って、どうかしましたか?」


じーっと見られるのも恥ずかしいんですが。


「……いや、少し楽そうだな」


薬も効いたみたいだなと、安心したように言われて今度は擽ったい気持ちになる。


「黒崎君のお父さんが来てくれたんですか?」

「…………………」


食後にと渡された薬は市販の物では無かった。
『効いた』って事は、全然憶えていないけれど、途中で一回呑んだんだろうか……


「…………ってねぇよ」

「すみませんでした。支払……」

「だから診察はして貰ってねぇ」

「い……って、え……?でも、薬……」

「それは技局製だ」

「技局?」


って、またその言葉……


「現世のそこらへんのヤツより確かだから安心しろ」


阿散井に云って持って来させたもんだからって、ごめんなさい阿散井さんっじゃなくて!


「何、で……」


黒崎君が、お父さんに往診を頼んでくれたはずだ。


「………んだよっ」

「はい?」

「俺が、」

「は……」

「診られるのが嫌だったんだよっ」


だから帰って貰った。

悪ぃかよ……って、


「その、人間みたいな姿をですか……」

「な訳有るか!」


全く、と呆れられても、じゃあ一体何なんですかとムッとなる、のに……


「じゃ、あ……、あの……?」


乗り上げるように覆い被された大きな躯が、室内灯を遮って陰を落とす。
ギシ と鳴ったスプリングの音がヤケに大きく響いた気がした。


「熱、下がったな」

「え……、っ……」


スッと差し入れられた掌が肌を滑って、反射で躯が反応した。

熱が、頬に溜まるのが分かる。


普通に計って下さいっ……


浮かんだ言葉を、音には出来なかった。


だって、余計な事まで気付いてしまった。


「俺が……」

「っ……」


胸元で、少しだけ込められた力に堪えられなくて、ギュウッとキツく瞳を瞑る。


「お前に誰かが触れんのが嫌なんだよ」


この人の肩越しに見えた、綺麗に掛けられた制服は……


そう言う事なんだろうと……。






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