13
「助かった……」
いや、疚しい事なんて無いんだよ。
だけど合コンて何だと一歩も退かない黒崎君相手に上手い言い訳を見付けられずに居たら、不意に喚き始めた不快な声に黒崎君が眉を顰めた。
チラッと向けられた視線に、急用なら行ってと頷いた。
『〜〜〜とにかくっ!早まんなよ――っ!!!』
俺が殺されんだろうがっ!
そう、意味不明な言葉を言い置いて駆けて行く後ろ姿に、
助かった……
とやっぱり思ってしまったのは、何て言うかもう不可抗力でしかない。
「合コン、か……」
今までなら全力で回避して来た其れに、行ってみても良いかも知れないと思った心境の変化は、あの人のせいかも知れない。
今まで好きな人なんて居なかった。
誰かを特別に想う事も、特別になりたいと思う事も無くて。
それが、恋人が居ても良いとか、傍に居られるだけで良いとか。
こんな、想うだけで苦しいなんて気持ちは知らなかった。
「初恋がよりによってあの人って……」
私も終わっている……。
あの人が現世に来なくなって、もう直ぐ三週間になるだろうか。
毎日のように思い浮かべては、らしくなく焦がれていたあの人の顔は今ではもう朧気で、目を凝らしてみてもぼんやりと霞んで消えた。
死神で、傍に処か、同じ世界に存在さえしていない。
会いたくても会えなくて、私からあの人の今を知る手段も無ければ、其の資格も、無い。
ギシギシと軋む胸の痛みは最近ではすっかり当たり前になっていて、麻痺して消えてしまいそうな程……。
だったら、
私はこのままあの人を忘れて、他の誰かを好きになれば良いんじゃないのかと、今までの17年間を棚に上げて思いもするんだ。
そんな簡単なモノじゃ、ないくせに……。
「会いたい……」
顔が見たい。
声が聴きたい。
あの人にそう伝えられるのは、たった一人だ……。
「だから初恋があの人って……」
どれだけハードルを上げてくれたら気が済むのか。
「本当、どうしてくれる」
この世界に、あの人より好きになれる人なんて、
私に出来る気がしな、い……
――――……
「う、そ……」
違う、でも……、だって、
私にそんな力なんて無い。
でも………
躯に感じるこの気配は、何故か間違いなくあの人のモノだと解った。
「っ………」
気付けば、もう遠くない家までの道を駆け出していた。
もう忘れたいとか、
顔が思い出せないとか。
このまま会わずに居れば無かった事になるなんて、今思ったばかりの事を全否定して私は走る。
だって会いたい。
顔が、見たい……。
私は――…
「遅ぇっ、お……」
「遅いっ」
「っ…………」
飛び込むように駆け込んだ自分の部屋で、遅ぇと不機嫌丸出しな様子で立ち上がり掛けたこの人を、押し倒すような形で胸に抱き付いた。
会いたかった。
もう二度と会えないんじゃないないかと思ったら……
「怖かった……」
「お前、何か遇ったの……」
「違う」
例えそうでも、そんな事は大した事じゃない。
私が怖いのは、終わりを知らないままこの人に会えなくなる事だけ……。
「っ………」
「…………阿呆」
会いたかった、そう言えずに口を噤んだ私をキツく抱き締める。
「『会いたかった』って云え……」
「…………」
会いたかったよ……。
こうしてこの人の優しさに、傷付くと解っていても……。
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