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   09


「あ――…、で」

「うん?」


連れて来られた屋上で、黒崎君が右手を首の後ろに回してぶっきらぼうに言葉を紡ぐ。


「『大丈夫、か?』」

「………う、ん」


何が似ている訳でも無いのに……


あの人の声が、不意に重なった気がした。


そんな事にすら胸がギュッとなるとか。


どこまでもあの人に侵蝕されているらしい心と躯に溜め息が洩れる。
心配そうに顰められた顔が脳裏に浮かんで、思い出すだけで苦しくなる胸を押さえ付けた。


「あ―…大、丈夫。それより用事って、何?」

「ああ、だからよ。暫く来られねぇからって伝えて欲しいって頼まれたんだよ」


帰り際、バタバタして色々伝え損なったっつって。


そう口にしながら、何かを思い出したかのように黒崎君の眉間に皺が寄った。


「……で、『凄ぇ不本意だけど具合悪ぃみたいだから様子も見に行ってくれ』って、ヒトに物を頼むのに凄ぇ嫌そうに!しかも技局経由でだぞ?」


信じらんねぇだろって叫ばれても、だから私は知らないよ。


技局って何。
経由って、何。


あの人、本当ムチャクチャやりやがるって、何も知らないはずなのに胸だけがどんどん痛くなる。


「暫くったって、聞けば数日だっつーんだから本当にアンタ、大じ……おいっ?」


何で……

期待させる事ばかりするのかな?


「何で……」


優しくなんて、しないで良いのに……。

莫迦な私は、こんなにも簡単に浮き沈みを繰り返す。

慣れたあの人には大した事じゃないのかも知れないけれど、私にはその境界線が判らない。


そろそろ、キツい……


目の前で目を見開いて、盛大に慌てている黒崎君がボヤけて映る。


「……何でって、ンなの当然じゃねぇかよ」

「そんなの、」


解らないよ……


「アンタって、本当に……





悪いっ……」

「うん……ご、めんね」


ガチャリと開いた屋上の扉。

急な人の気配に、泣いてしまった私を気遣ってだろう、黒崎君が片腕でぐっと頭を埋めるように胸に抱いた。


「あ―…本当、マジでヤベぇ」


マジ殺されるって、何を不穏な台詞を吐いているのか知らないけれど、そう言いながらも、私を泣き止ませようと背中を辿る手は不器用で優しい。


ヒューッと聴こえた冷やかしに、また要らない誤解を増やしたと内心で黒崎君に謝罪しながら。

私は、また訊きそびれた言葉の続きを思っていた。






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