08
「なーに色っぽい溜め息なんて吐いてんのよ」
もう何度目かも分からない、洩れた溜め息に掛かるからかいを含んだ声に振り向けば、
「ほら、」
『溜め息の元』と指差されて、バッと勢い良く顔を向けてしまった。
「…………」
当たり前に視線の先に見えたのは別の顔。
特徴的な色彩を放つ不機嫌そうな顔は、既に標準装備である眉間に深い皺を寄せた……
違うし……
何を期待したと言うのか。
勢い良く振り返ってしまった自分に呆れる。
そんな私の一連の行動に、ほぅらと謂わんばかりのニヤケ顔で、冷やかすように肘で突つく悪友に嘆息して、気付かれないように苦笑した。
あの人が、今こんな所に居る訳がない。
席を立って黒崎君の所へと向かいながら、考えなくても解るような事を失念してしまう程に、私はあの人が恋しいのかと込み上げるモノに必死に耐えた。
「どうしたの?」
またまた久しぶりだねと笑い掛ければ、大丈夫なのかと問われて首を傾げた。
「だからそれ止めろ」って、黒崎君まで失礼な。
少しだけムッとして見せれば、そう言う意味じゃねぇとあの人と似たような事を言うから、今度は私の眉間にくっきりと皺が寄った。
また、あの人が顔を出すようになってからは、黒崎君も阿散井さんも私の所に来る事は無かった。
あの人が、仕事は大丈夫なのかと心配になるくらい顔を出してくれて居たから……。
「ったく、アンタが具合悪いからって、珍しく様子を見に行けって脅され……」
「はい?」
「っいや!…の前にっ 何で俺はこんな注目浴びてんだ?」
「……注目?」
って、ああ。それはですね。
最近になって、黒崎君と話すだけじゃなく、一緒に居る機会が増えたのと同時期にあの人のアノ嫌がらせが始まったんで……
「すっかり忘れてたけど、ごめんね」
「何がだよっ」
「聞きたい?」
ウチのクラス、基、何故か3年の間では、黒崎君は完璧にキスマークの犯人扱いだ。
面倒臭いからと放って置いた訳じゃないよ。
色々、それ処じゃなかっただけで……。
辞めておくと引きつった黒崎君にハハッと遠い目をして続きを促せば、余程居心地が悪いのか、やっぱり屋上で話すと私の手を引いた。
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