06
「本当に来るとは……」
「何だよ」
「……いえ。お仕事って大丈夫なんですか」
「帰って寝なきゃ問題無ぇ」
「それって問題大有りじゃ……」
何でここまでして……と思って口を噤んだ。
昨日、ついうっかり。いやいや、早目にと次の日の授業の準備をしていた所に現れたこの人が、急に不機嫌になったと思ったら休めと言い出した。
『……は?』
『だから休めよ』
いやいや、だからとか接続語が完全におかしいでしょう。
『授業をサボる訳には行きません』
『絶対ダメだ』
『何でですかっ』
『俺が嫌だからに決まってんだろ!』
……本当に良く解らない。
その後も埒の明かない言い合いを繰り広げ、着地を見ないままに終わらせたはずの話を、ここまで引き摺るとは思わなかった……。
「もう解りましたけど、熱さで昇天したら呪ってやる」
「そりゃ願ったりだな」
「酷っ やっぱ入る!」
「そう言う意味じゃねぇよ!」
……結局。
「熱くて溶ける……」
この人の言う事を聞いて、この熱いのにジャージの上下を着込んで見学してる自分もどうなんだと心底呆れる。呆れるけれど、この人に云われると逆らい切れないのはもう残念な事実で……。
「別に私の水着なんて誰も見てないのに……」
そこまで自意識過剰には出来て無いんですがと、滴る汗をタオルで押さえた。
くそぅ。はしゃぐ連中がみんな気持ち好さそうに見える。
「私も入りたかっ……」
「お前の貧相な躯じゃ公害にしかなんねぇだろ」
「…………」
「おい?」
別に、甘い何かを期待していた訳じゃない。
「……そう、ですね」
「お……」
何かを言い掛けたこの人に、今は上手く返す自信は無くて、無言のまま立ち上がって先生の所へ行った。
「やっぱり具合が悪いので保健室に行きます」
余程、私が変な顔でもしていたのか、直ぐに許可をくれた先生に頭を下げてプールサイドを後にした。
ああ、もう。
「暑くて、死ぬ」
本格的に具合も悪くなって来たみたいだ。
一人きりの更衣室で制服に着替える私はきっと表情なんて無いだろう。
ベタベタと張り付くシャツが鬱陶しいと目をやれば、見下ろした躯がヤケに目に付いた。
見慣れたはずのソレに溜め息さえ溢れる。
「別に、良いけど……」
どうせ、と卑屈な事を思いそうになっては、止めた。
例え外見が変わったとしても、中身が変わる訳でも無い。
「知ってるよ……」
何が変わる訳でもないんだと……。
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