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   03


いつまでも無くならないこの人の気配を感じて居れば、フッと、射した影に気付いて視線を向けた。


「っ……」


近いっ……んですけどっ


思いの外 至近距離に居たこの人と視線が絡んで咄嗟に視線を逸らしてしまった。

何て不自然な真似をと思ってもどうにもならない。
こんな事なら自覚なんてするんじゃ無かったと思ってももう遅い。


「何か、有りましたか?」


何も言わないこの人が、何を想って居るのかも解らなくて不安にもなる。

必死に平気なフリを装おいながら、ジリ と退いてしまった、ほんの少しの逃避くらいは許して欲しいと願っ……


「っ、あの……?」


思わず問い掛けてしまったのは、現状が良く解らなかったからで、


「帰りたくねぇな……」

「…………」


何故……


と茫然としてしまったのも仕方がないと思いたい。

こんな事は今までに一度だって無かった。
まるで別れを惜しむように、当たり前に引き寄せられた躯が熱くなる。

この人の帰りたくない理由が検討も付かなければ、今、抱き締められて居る理由も解らない……。


解らない事だらけだけど、そんなどんどん熱を持って行く躯が、恥ずかしいくらいに紅くなっているのが判って泣きそうになる。

一杯一杯な私を他所に、髪を梳いたこの人の大きな手が耳元を辿って頬に触れて来るから……


「今、見ないで下さい……」


そのまま包み込んで上向かせようとするのには、嫌々をするように首を振った。


今、顔を見られたら恥ずかし過ぎる……


それだけは嫌だと、ギュウウッと抱き着いて顔を埋めれば、ゆっくりと柔らかな熱が旋毛に降りて、


どうしてだろう……


頭上でこの人が、優しく微笑んだ気がした。






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